プレイリー・ハタネズミは一度ペアを組むと一生添い遂げる動物の代表として研究されてきた。これは大体哺乳動物の5%ぐらいに見られるそうだが、飼育ができて脳活動を調べられるという点ではもっぱらプレーリー・ハタネズミの独壇場だ。一人のパートナーにロックされる過程を脳生理学的に研究した論文は以前も紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/6938)、これが前頭葉の側坐核の活動で支配されていることもわかっている。重要なのはこの現象が人間でも見られることで、自分の連れあいの手を握っていると想像した時一番興奮するのがやはり側坐核だ。
今日紹介するコロンビア大学からの論文はこの側坐核の活動の中でも、ペア認識に強く関わる細胞とそうでない細胞が明確に分かれていることを示した研究で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「A neuronal signature for monogamous reunion (連れ合いとの再会時の神経学的特徴)」だ。
この研究ではまだ相手の決まっていない段階、6日間決まった相手と過ごした後、そして20日同じパートナーと過ごした後、ペアの絆の強さを、ペアと無関係の個体が別々に入ったチェンバーに、テストしたい個体を入れてその行動を調べる定番の方法を用いて計測している。
行動学的には、長く一緒にいるほどペアの絆が高まることを確認した後、側坐核の一部の細胞(約40個ぐらい)の活動をCaイメージングで同時に記録できる様にしたプレーリー・ハタネズミをチェンバーに入れ、3時間行動と側坐核神経細胞の興奮をモニターして、ペアの絆と相関する活動を調べている。
結果は予想外で、40個程度という限界はあるが、側坐核全体の興奮で調べても、ペアとそれ以外の個体とに対する行動の差を見ることができないことがわかった。この点は、他の論文と異なっているので、本当かどうかさらに検討が必要だろう。
ただ、この研究では必ずペアに対する行動の差と相関する神経活動があるはずだと、解析を進め、他の個体に近づくときに興奮する細胞の数が、ペアに近づくときだけ高まることを発見する。
このとき興奮する細胞はペアに近づくときだけ反応し、他の個体に近づくときに見られる興奮細胞とは全く異なる。また、細胞は固まっているのではなく、観察領域に広がって存在している。そして、興奮は近づくと決める前に始まる。
結果は以上で、ペアと出会ったときにまず気持ちが高まって、その高まりが近づくほどにさらに増大し、離れると細胞興奮が低下するという行動に関わる細胞が見つかったとまとめていいだろう。
この結果は、それなりに面白いのだが、プレーリー・ハタネズミは、まだまだ面白い行動が知られている。例えば、野生を観察すると、必ず浮気ネズミが現れる様だ。また、これがオキシトシンなどに反応するバソプレシン受容体の初弁と関わることが知られている。脳神経科学の対象が、こうした野生まで広がると、面白い分野になる様に思う。
ペアと出会ったときにまず気持ちが高まって、その高まりが近づくほどにさらに増大し、
離れると細胞興奮が低下するという行動に関わる細胞が見つかった
Imp:
気持ちを生み出す細胞発見!?
消去主義的唯物論を支持する証拠の一つ?