APOEには3種類のアイソフォームが存在し、それぞれのアイソフォームは様々な形でアルツハイマー型認知症に関わっている。例えばAPOEのε4アイソフォームはアルツハイマー病のリスクを10倍以上高めることが知られている。一方、稀なアイソフォームだが、クライストチャーチ型変異を持つAPOEによって、アミロイドがどれほど蓄積しても認知症状が出ない老人がいることを示した論文を以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/11677)が、場合によっては認知症リスクを下げる。
今、私が最も期待している新型コロナの研究分野は、感染や重症化の遺伝的リスクについての論文だ。当然のことながら組織適合抗原については論文が出始めたし、欧米でのゲノム解析が進んでいるので、多くのリスクファクターがわかるのも時間の問題だろう。これによって、個人の感染や重症リスクをあらかじめ知ることができることは大きい。ただ論文として現れるにはまだ少し時間がかかるようだ。
それでもゲノムデータの揃っているコホート研究から断片的な論文は発表されている。例えば50万人規模の英国バイオバンクに登録された人たちも当然コロナに感染し、600人近くの人がPCRで陽性と診断されている。この人たちのAPOEのアイソフォームを調べると、様々なリスクファクターを補正した後でもE4アイソフォームを持つ人がオッズ比で2.5倍ぐらい高いことが示された。これは、すでに認知を発病した人を除いても同じなので、APOE4が感染しやすさのリスクであることを示している。
残念ながらデータはこれだけで、今後診療データを集めた検討が行われることで、重症化などについても相関が見えてくるだろう。ただ、感染性が免疫反応と関わるとすると、E4が免疫を抑えることになるが、ちょっと違和感がある。
実際ほとんど同じ時にNature Medicineにオンライン出版されたロックフェラー大学からの論文では、悪性黒色腫への免疫反応はE4アイソフォームを持つ人の方が高いという結果が示されているので最後に紹介する。
このグループはAPOEのアイソフォームが異なるモデルマウスを用いて、E4の生理活性を調べていたようだ。一つの試みとして、マウスメラノーマを注射してE4と E2アイソフォームのマウスを比べると、E4マウスでは腫瘍の増殖が強く抑えられる。そして、この原因が腫瘍内での免疫系細胞の数に反映されていることを明らかにしている。すなわち、E4マウスでは腫瘍内のキラー細胞やNK細胞の数が高まっている。すなわち抗腫瘍免疫について言えば、明らかにE4アイソフォームの方が良い効果がある。
これが特殊なマウスモデルのせいでないことを示すため、今度はメラノーマ患者さんのデータベースから生存期間とAPOEアイソフォームとの相関を調べると、E4(E3も)アイソフォームは長期間生存するチャンスが大幅に高まっている。
これが免疫系の効果であることは、E4アイソフォームの人ではチェックポイント治療の効果高いことからも推察される。
このように、少なくともガン免疫で腫瘍内への細胞浸潤と腫瘍障害で見たときは、アルツハイマーリスクであるE4も捨てたものではない。おそらく、新型コロナに対してももう少し精密な研究が進めば、より免疫との関わりが見えるだろう。いずれにせよ、早く大規模ゲノム検索結果が発表されるのを心待ちにしている。
悪性黒色腫への免疫反応はE4アイソフォームを持つ人の方が高い
Imp:
意外すぎる関係。
想像すらしたことありませんでした。