スマートフォン(スマフォ)は様々なセンサーを持つコンピュータで、当然体の様々な指標を集める道具として使える。このブログでも血圧測定、小児中耳炎診断、皮膚ガンの診断などを紹介してきた。これらの測定をさらに医学的に利用可能にしているのがAIの利用で、医者に行く前にかなり正確な診断を可能にしようとしている。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はスマフォのフォトセンサーを用いて血管を調べ糖尿病を診断する方法の開発で8月17日号のNature Medicineに掲載された。タイトルは「A digital biomarker of diabetes from smartphone-based vascular signals (スマートフォンを用いた血管検査による糖尿病のデジタルバイオマーカーの開発)」だ。
この研究ではphotoplethsmography (PPG:光電容積脈波)を用いて指の血管の状態を調べ、そのパターンと糖尿病との相関を機械学習させ、糖尿病の診断を行おうとしている。PPGは血管床の血流の変化を検出する方法で、血液量の変化によりできる後方散乱を検出するもので、脈拍、酸素飽和度、そして脈波を通した心疾患診断に用いられてきている。
さらに最近では、スマフォのカメラとLEDライトを用いてPPGを計測する方法が開発されており、この研究でもAzumio Instant heart rateとして知られる広く使われているアプリをそのまま使っている。
このパターンを脈拍や心臓病の診断に使うというのはよくある話だが、この研究では糖尿病診断に使えるかを探っている。確かに、糖尿病の器質的変化は必ず血管にくるので、見ただけではわからない小さな変化を機械学習させれば不可能ではない。
この研究では、既存のアプリで採取した脈波と、自己申告による糖尿病の有無を5万人近い対象者からデータを得て機械学習させ、心臓など他の状態に左右されない糖尿病の指標として使えるかどうか調べている。
おそらく著者らにとっても期待以上の結果だったと思うが、スマフォによるPPGのみで、AUCと呼ばれる性能指数で0.7前後(0.5がランダム、1.0で完全に正確)をたたき出した。他のPPGに関わる指標との重なりを調べると、独立した糖尿病指標として用いられることも確認している。その上で、他の指標、例えば年齢、性別、人種、BMIを組み合わせたモデルを作って調べるとAUCが0.83まで高めることができるので、自宅でできる糖尿病診断レベルでは使えるという結果だ。
またデータは示していないが、この指標とHbA1Cの値が相関することから糖尿病の重症度もある程度知ることができるかもしれない。
脈波だけで糖尿病まで診断してしまう機械学習の力に恐れ入るが、研究する側としては、どの変化が糖尿病特有の脈波変化として拾われ、その変化を起こす病理組織的ベースは何かを知るという、全く新しい課題が生じたことになる。しかし、スマートフォンおそるべしだ。
年齢、性別、人種、BMIを組み合わせたモデルを作って調べるとAUCが0.83まで高めることができ、
自宅での糖尿病診断レベルでは使えるという結果。
Imp:
スマホ:すでに身体の一部、自分の分身のような感覚で使っています。
今までの進化のスピード考えると、可能性は∞のスマホ