4月21日強皮症治療の新しい可能性(4月16日発行The Science Translational Medicine掲載論文)
2014年4月21日
一昨日は京大思修館熟議で16人の若者、昨日は岸田さんを迎えたAASJチャンネルにネット接続してくれた282人の来場者の方々と時間をかけて話す事が出来た。熟議3時間、AASJチャンネル2時間と大分疲れたが楽しんでいる。この様な活動を通して自分自身の視野が開けるのを実感する。事実岸田さんと出会わなかったらAYA世代のがんについてまとめて論文を読む事など思いつきもしなかったはずだ。岸田さん初め参加していただいた皆さん「本当にありがとう」。同じように、このコーナーのために様々な分野の論文を読んだおかげで俯瞰的に物を見る事が可能になって来た。報道ウォッチは終了するが、論文の紹介は自分のためにも続けるつもりだ。今日紹介する研究からも様々な事を学んだ。強皮症は様々な臓器で線維化が進む病気で、線維化のために皮膚が硬くなるのでこの名前がついた病気だ。我が国でも約2万人の患者さんがいる。自己免疫病と考えられており、免疫抑制剤を用いる治療が行われているが、進行を完全に止めるには至らない。この研究は強皮症での線維化に関わるシグナルの一つを明らかにするもので、シカゴのNorth Western 大学から4月16日発行のThe Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは、「Fibronectin-EDA promotes chronic cutaneous fibrosis through toll-like receptor signaling (ED型Fibronectin分子はToll-like受容体を刺激し、皮膚の慢性的線維化を促進する)」だ。多くの実験結果が示されているが、ストーリーはわかりやすい。まず、強皮症の患者さんを調べると、正常人と比べた時ファイブロネクチンの特定の型(ED型)が平均で5倍近く上昇している事を発見している。この分子は、発生時や皮膚の修復時に上昇するが、成人では通常低いレベルで収まっている。ED型ファイブロネクチンはTLR4と呼ばれる受容体を刺激し、炎症や線維化を誘導する事が知られている。この研究でもED型ファイブロネクチンがコラーゲンの生産や線維芽細胞の増殖を促進する事が示され、強皮症の線維化にこのシグナル経路が寄与している事を示している。もちろんなぜED型ファイブロネクチンがこの病気で上昇するのかなど、病気の本当の原因が突き止められたわけではない。しかしこのシグナル経路を遮断すると、線維化を押さえる事が出来ること、またTLR4受容体の機能を抑制する薬剤も同じ効果を持つ事が示されている。原因を断つ根本治療は難しいが、これまでより病気に特異的な治療の可能性を示唆している。日々研究が進んでいる事を実感する。