このホームページでも、ガンの発現する抗原に対する抗体をT細胞受容体シグナル伝達部分とキメラにした遺伝子を患者さんのリンパ球に導入してガンに対するキラー細胞として使うCAR-T治療についての論文を、既に40回近く紹介している。これまで2800回ぐらい論文紹介をしているので、一つのサブジェクトとしては多いと思う。しかし、最初B細胞白血病に対する論文が出たときはその効果に驚いた。
しかし、白血病に対するCAR-T療法の高い効果に対して、固形腫瘍に対しては現在も実用化へのハードルが高そうで、少しづつしか進展がないようだ。今日紹介する英国NHS財団の小児病院からの論文は、固形腫瘍に対するCAR-T治療の難しさを正直に示した治験研究で11月25日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Antitumor activity without on-target off-tumor toxicity of GD2–chimeric antigen receptor T cells in patients with neuroblastoma (GD2に対するキメラ抗原受容体T細胞による神経芽腫の治療は、正常細胞に対する障害なしに高腫瘍効果が見られる)」だ。
この研究は、神経上皮由来の腫瘍に強く発現している糖鎖GD2を抗原とするCAR-Tを用いて他の治療の可能性がなくなった神経芽腫の治療の可能性と副作用を調べる第1相の治験だ。GD2は正常の神経細胞でもある程度発現しているが、発現量が高いことから、特に神経芽腫の免疫治療の標的として用いられており、CAR-Tについても既に治験が行われてきた。ただ、CAR-Tの場合正常細胞への障害性も考えられるので、この研究ではGD2に対する中程度の親和性を持つ抗体遺伝子をわざわざ選んでキメラT細胞受容体として用いている。CAR-T自体は、第二世代と呼ばれるco-stimulatorシグナルを加えた方法で、一般的な方法になっている。
ほぼ万策尽きた神経芽腫の再発患者さん17例がリクルートされ、まず十分なCAR-T細胞が調整できるか調べているが、調整中に5人の患者さんが亡くなっており、病気の進行状態が窺われる。それでも、12例について生存中に細胞を調整できたことは重要だ。
次に投与量の検討で、1平方体表面積あたり1千万個から、1億、10億と量を増やしている。この条件でまず注入したCAR-Tが体内で増殖するか調べると、1億個以上注入しないと増殖を検出することはできない。一方で、増殖が見られると必ずいわゆるサイトカイン遊離症候群と呼ばれる副作用が発生するが、IL-6に対する抗体で抑えることができる。幸いにも、正常神経を障害する副作用は見られていない。
ただ、最も残念なことはほとんどの患者さんで1ヶ月すると、注入したCAR-Tが消失することで、2ヶ月目では全例で検出できなくなる。それでも、3例については、骨髄をはじめ、一部の転移巣に対する効果が見られ、1例についてはほとんどの転移巣で大きな改善が見られている。他の2例は、一般的な検査では改善が見られていないが、バイオプシーでは縮小が見られない領域でも強いネクローシスが観察されたことから、CAR-T治療がともかくガンを殺していることが明らかになった。
結論としては、現段階で最終的にはCAR-Tそのものが消失して、長期的な治療効果を得られないが、固形腫瘍に対する反応がしっかり見られることから、今の段階で一般治療として認めるわけにはいかないが、改良点が明らかになり、可能性は十分あるといえるだろう。
最近はあまりCAR-T論文を取り上げることは減っていたが、厳しくても少しづつ新しい可能性が生まれていることを実感した。
固形腫瘍に対するCAR-○△療法。
CAR部分への工夫、○▽部分への工夫など様々なものが試みられているよです。
先生のコーナーから、かなり知識を得ました。
悪性疾患への免疫細胞療法では、
時々刻々変化する無数のパラメーター=患者腫瘍状態、投与免疫細胞状態、患者免疫系状態etcを
時空間に沿って“最適化”することがpointなのではないかと感じています。
こうした技術を人類は開発できるのでしょうか??