重症の新型コロナウイルス(Covid-19)肺炎に対する治療がどの様に行われているのかは、統計的に処理された論文からはなかなか窺い知ることはできない。しかし、医師の判断による特別の治療を受けた患者さんについての症例報告からは、様々なことがわかる。
今日紹介するシカゴのノースウェスタン大学病院から、12月16日号のScience Translational Medicineに発表された論文は、まずタイトル「Lung transplantation for patients with severe COVID-19(重症Covid-19患者さんに対する肺移植)」を見て驚いた。「Covid-19で医療が逼迫しているときに、ドナーが見つかるとしても、感染症による呼吸不全に対して肺移植がアメリカでは許されるのだろうか?」というのが率直な疑問だった。もちろん、論文を読んだ後もこの印象は変わらないし、まず日本では不可能だろうと思う。
とはいえ、この大学では3例も肺移植を行い、3例とも現時点では寛解している。ではどんな患者さんだったのか見てみよう。
28歳女性、基礎疾患は視神経脊髄炎で免疫抑制治療中にCoV2感染、急速に重症化し人工呼吸、最終的にECMO。治療中にセラチア感染。治療はセラチアに対する抗生剤、レムデシビル、クロロキン、IL6抗体、そして回復患者血清。ウイルスは消失しても、症状改善なく肺移植により回復、退院。
62歳男性、基礎疾患高血圧。感染後急速に悪化、ECMO。入院中緑膿菌感染。治療は抗生剤、レムデシビル、回復者血清、デキサメサゾン。ウイルスは4週間で消失。しかし肺機能回復なく、緑膿菌感染進行もあり、肺移植の結果回復退院。
43歳男性、基礎疾患糖尿病。感染後人工呼吸器を経てECMO。経過中に様々な循環器障害、肺症状、脳卒中などを合併。治療は抗生剤、レムデシビル、回復者血清。4週以降はウイルス消失も、症状回復せず、肺移植。現在入院してリハビリ中。
これら重症3症例からわかるのは、この大学ではレムデシビルと回復者血清が標準的に治療に使われていることで、しかもこれほど重症でも、ウイルスを除去するのに成功している点だ。原理的に考えると、レムデシビル、中和抗体は感染拡大に効果が高いことは間違い無い。ただ、治験で重傷者にそれほど効果がない様に見えるのは、重傷者の多くがウイルス感染による病気から、感染により誘導されたとしても、もはやウイルスの関与がない合併症に移行しているからといえる。
すなわち、重傷者に対する抗ウイルス療法の治験結果の解釈には注意が必要で、ウイルス除去に成功したかどうか必ず示されるべきだろう。
さらに我が国の現状はわからないが、人工呼吸器やECMOが必要な段階に入ると、治療による合併症とともに、新たに細菌感染が起こることで、これが病気をさらに治りにくくしていることもわかる。
では、ウイルス感染による肺炎から移行した次の段階とは何か?この研究では、組織学的解析とともに、肺移植時に切除した患者さんの肺から細胞を調整して、Single cellトランスクリプトーム検査を行い、貴重な症例から徹底的に学ぼうとしている。
詳細は省くが、組織学的には、マクロファージを主役とする線維化へのスイッチが入ってしまい、もはや回復できない複雑な病理像へと転がり落ちると形容できる状態が起こっている。ただ、この状態は、決してウイルス感染だけによりスイッチが入るのではなく、炎症や、人工呼吸器による損傷、合併する細菌感染など様々な要因が集まる、難しい状態であることがわかる。そして、この状態は肺移植しか救いようが無い。ただ、組織で調べても、ウイルスは完全に除去できていることも確認している。
これらの結果に基づき、ケラチン17陽性、ケラチン5陰性の肺胞細胞の出現が、感染症から線維症への転換を示すマーカーになることなど、アドバイスが行われているが、詳細は省く。
Covid-19患者さんへの肺移植が行われるとはまず考えられない我が国だが、今日紹介した様な、逼迫する医療の中で行われた驚くほど冷静な臨床研究は、学ぶことが多い。例えば、我が国で2週間以上入院している重症例でのウイルス検査成績など、この研究を見て是非知りたいと思った。
1:組織学的にはマクロファージを主役とする線維化へのスウィッチが入ってしまいもはや回復できない複雑な病理像へと転がり落ちる
2:この状態はウイルス感染だけによりスウィッチが入るのではなく炎症や人工呼吸器による損傷合併する細菌感染など様々な要因が集まる難しい状態である。
Imp:
コロナ患者に肺移植。。。
想像できない医療です。