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新年のご挨拶

2021年1月1日
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皆様、明けましておめでとうございます。

昨年は、高々30Kbのウイルスに全人類の活動が狂わされた暗い1年だったと思います。

私(西川)自身も2月NYに旅行した以外は完全に日本に閉じ込められ、計画していたウガンダ・バードウォッチングも諦めざるを得ませんでした。

しかし昨年1年間、9万に及ぶ論文から生まれたこのウイルスについての研究を学べば学ぶほど、たった30KbのRNAは全世界を震撼させるに足る(不謹慎を承知で表現すると)惚れ惚れする情報で満ち溢れているのが理解できました。

特に夏に入ると、本当に面白い論文が続々発表される様になり、毎日毎日インパクトの高い情報に溺れたために、夏以降私の学びのペースがすこし乱れてしまいました。結果、「自閉症の科学」と「生命科学の目で読む哲学書」も夏からは新しい記事が書けていません。

しかしご安心ください。特に「・・・哲学書」の方は、近代科学誕生の時代を作った、デカルト、ライプニッツ、スピノザの人部像が自分の頭に焼き付くまで何度も何度も著書を読み返し、彼らを友人の様に身近に感じられるところまで来ました。今年早々には、「デカルト君」からはじめ、近代科学とは何かを議論するつもりです。

でも溺れることも時には大事だと思います。なによりも、Covid-19についての論文に目を通すことで、ミレニアムに際して目指したトランスレーショナルメディシンが力強く実現していることを実感できました。特にRNAワクチンの科学とその応用については本当に目を見張りました。

「有効で安全なワクチン開発には通常何年もかかる」とお題目を繰り返す、不勉強なマスメディアを尻目に、ウイルスゲノムのDNA配列が報告されてから3日でRNAの設計を終え、次の日にはGMP生産が行われ、なんと7月までに前臨床、1/2相治験を終了して、第3相開始、12月にはワクチンの臨床接種開始という超高速で、有効性の高いワクチンの供給を達成しています。

ワクチンを接種するかどうかは個人の自由でしょうが、私たちはこのワクチンの科学を正確に伝えることができていたでしょうか?元科学者として今回最も感銘を受けたのは、提供までの一部始終が、逐一論文として発表されたことです。例えば、なぜワクチンに使われたmodified Uridineが重要なのか?なぜわざわざスパイク遺伝子に突然変異を導入しているのか?さらには、なぜ強い免疫が速やかに成立できるのか?といった基礎データが臨床治験とともにすべて査読を受けた論文として発表されています。この基礎データのおかげで、報告されている臨床治験データについても、副反応も含めかなりのことが科学的に推定可能になったと思っています。

もちろんワクチンに止まりません。毎日毎日Covid-19に対して戦うための、「希望のチャート」が着々と完成しつつあるのです。

問題は、この様な科学的知識を、専門家と一般の人が共有するための方法がよくわからないことです。専門家がマスメディアやSNSを通して上から目線で知識を伝えるというスタイルが、様々な分断を産んだことを、Science誌の昨年の10大ニュースにあげて反省を促しています。

そこでAASJは本年を、一般の方と共有できる医学知識とは何かを真剣に考える元年として取り組むことを決意しました。特に、うめきた2期まちづくりプロジェクト「参加型ヘルスケア」を重要な場として活動を進めたいと考えています。そのために、AASJのHPを見ていただいている皆様方と、もっともっと直に話し合う機会を持ちたいと考えています。

どうかよろしくお願いします。