先日紹介したコウモリの様に、コロナウイルスに感染した細胞が静かに死んで、新しい細胞に置き換わるのを待てるなら、何の問題もない。しかし私たちの細胞は、ウイルスが入ってくると大騒ぎして周りの細胞にアラームを発しながら死ぬ様にできている。こうして起こる炎症が呼吸不全や全身の血管炎の引き金を引いてしまう。この炎症に関わる一つの経路が、インフラゾームと呼ばれる炎症の核になる細胞内システムで、システムと呼ばざるを得ないほど複雑で、余程勉強しないと理解できない代物だ。
ほとんどの場合、インフラマゾームというとNLRP3になってしまうが、実際には何種類も存在する。中でもNLRP1は上皮に強く発現が見られ、おそらくCovid-19感染でも重要な役割をしていることが想像される。というのも、相次いで発見されたNLRP1の変異の解析から、この分子が皮膚や肺の炎症に関わることが明らかになっており、さらに最近ウイルスのプロテアーゼにより活性化され、インフラマゾームを形成することが報告されている。当然、NLRP3に加えて、肺の炎症をさらに複雑にしていると考えるのが筋だ。ただ、NLRP1の構造や機能が人とマウスで大きく異なっているため、NLRP3と比べると研究が遥かに遅れていた。
今日紹介するドイツ ミュンヘン大学からの論文はCovid-19の研究ではないが、NLRP1がウイルス複製時に発生する長い二重鎖RNAにより活性化されることを示した重要な研究で、今後Covid-19の病理を考える意味でも重要な貢献だと思う。タイトルは「Human NLRP1 is a sensor for double-stranded RNA(人間のNLRP1は二重鎖RNAのセンサーとしてはたらく)」で、1月29日号のScienceに掲載された。
この研究では人ケラチノサイトにDNAウイルス、positive-RNA ウイルス、そしてnegativeRNAウイルスを感染させ、NLRP1の活性化を調べ、positive RNA ウイルス(コロナウイルスと同じ)を感染させたときにだけインフラマゾームが活性化されることを発見する。しかも、RNAの長さが500bp以上ないと活性化が起こらないことを発見した。
またこれまで想像されていた様に、この二重鎖RNAで活性化される性質はヒトNLRP1特異的でマウスのNLRP1bには見られない。
あとは、NLRP1が欠損した細胞に様々な形のNLRP1を戻すことで、二重鎖RNAセンサー機能がLRRドメインに長い二重鎖RNAが絡みつくことで引き金が引かれ、そのあと短い二重鎖RNAでNACHTドメインのATP 加水分解活性が誘導されることを遺伝学的、生化学的に証明しているが、詳細は省く。
以上、二重鎖DNAについてはAIM2というセンサーが既に知られているが、ついにRNAウイルスの複製が始まったときに感知して炎症を誘導する仕組みが明らかになったと思う。二重鎖RNAに絡みつくところなど、結構原始的な仕組みを使っている様に思うが、肺の炎症を考えるときNLRP1は重要な鍵になる様な気がする。
二重鎖DNAについてはAIM2というセンサーが既に知られているが,
RNAウイルスの複製が始まったときに感知して炎症を誘導する仕組みが明らかになった!!
Imp:
mRNAワクチンのミステリーにハマッテいる今日この頃。
今日のような内容の論文も“様々な視点”で眺めないといけないと感じる今日この頃。
二本鎖RNA(その類似物):ある時は毒となり、ある時は薬となる(ガン免疫療法のアジュバントpolyI:C)