腸内細菌叢の発達には食事を中心とした生活環境要因の影響が大きい。それでも、環境は同じでも遺伝形質が異なるmonozygoticとdizygotic twinを比べる研究から、ある程度ホストゲノムの影響を受けることが想像されているが、大きな集団を対象としたゲノム研究では、明確な結論は出ていない。これは、集団が大きいほどゲノムとの相関を特定する可能性は上がるが、対象とする集団の生活環境要因を揃えることが難しくなるためだと思う。
今日紹介するドイツ・キール大学からの論文は、それぞれドイツの狭い地域に住む5種類のコホート集団を対象にすることで、生活環境の影響を整え、ゲノムとの相関を調べやすくして細菌叢とゲノムの問題に再チャレンジした研究で1月18日発行のNature Geneticsにオンライン掲載された。タイトルは「Genome-wide association study in 8,956 German individuals identifies influence of ABO histo-blood groups on gut microbiome(8956人のドイツ人の全ゲノム相関研究から腸内細菌叢へのABO型の影響が明らかになった)」だ。
選ばれたコホートのうち4つは北ドイツで、1つは南ドイツだが、それぞれの腸内に存在する細菌はかなり似通っていると言っている。すなわち、生活環境要因をかなりの程度そろえることができている。
この集団で、細菌叢の様々な指標、例えば多様性、各種類の定量的違い、さらには検出可能性などと遺伝子多型の相関を調べると、44種類の統計的に有意と考えられる多型が発見されている。
この結果、例えば乳酸分解に関わる遺伝子多型とビフィズス菌との相関、あるいはBarnesiellaの存在とBiliverdin 分解酵素(TLR4発現に関わる)遺伝子座の多型などが明らかになっている。
ただ、この研究で着目したのはFaecalibacteriumとBacteroidesと血液型に関わる糖添加酵素遺伝子座の多型との相関が特定された点で、改めてこれらの細菌とABO型との相関を調べ直している。結果は期待通りで、Bacterioidesの量はO型以外の血液型を持つ人で多く、またFaecalibacterium とA型が相関することを明らかにしている。
最後に、遺伝子型を用いて形質を無作為化して調べるMendelian Randamizationと呼ばれる方法を用いて、それぞれの細菌と、炎症性腸疾患などとの相関を確認している。例えば、O型以外で多いBacteroidesは Mendelian Randamizationで見るとクローン病と相関する。他にも、この手法で遺伝子背景をそろえることで、病気とバクテリアの相関が明らかになることから、遺伝要因を正確に結果に反映させることで、細菌叢の効果をより明確に評価できることを強調している。
主な結果は以上で、腸内細菌叢の発達は環境要因だけではなく、遺伝要因も関わることが明らかになったが、最も面白いのはなぜABO型と細菌が相関するかだ。この研究では、O型以外の人は、H抗原にさらに糖が添加された分子が腸管に分泌されるためと結論しているが、詳しいメカニズムははっきりしない。しかし、Covid-19の重症化にも同じ様に血液型が関わることは、ひょっとしたら腸管を介した結果かもしれない。
腸内細菌叢の発達は環境要因だけではなく、遺伝要因も関わることが明らかになった
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ホストとも情報交換している腸内細菌叢。
Mendelian Randamization:遺伝子型を用いて形質を無作為化して調べる方法