一般的なアトピー性皮膚炎に関しては、アレルギー性の炎症であることはわかっていても、その原因を完全に特定することが難しいのが普通だ。ただ、患者さんの多くで皮膚に黄色ブドウ球菌の増殖が見られることから、これが炎症を高める重要なファクターになっているのではと考えられている。したがって、緑膿菌を皮膚から除けば症状は改善すると期待されるが、これがまた難しい。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校皮膚科からの論文は、黄色ブドウ球菌の増殖と炎症性物質の生産を抑えるために、常在のブドウ球菌を用いる可能性を追求した臨床試験を含む研究で2月22日Nature Medicineにオンライン発表された。タイトルは「Development of a human skin commensal microbe for bacteriotherapy of atopic dermatitis and use in a phase 1 randomized clinical trial(アトピー性皮膚炎の細菌治療に利用できる皮膚常在菌の開発と第1相無作為化臨床治験)」だ。
研究では健康人皮膚常在菌の中に試験管内での黄色ブドウ球菌(SA)の増殖を抑制する細菌がないかスクリーニングし、最終的に同じブドウ球菌、S.hominisの系統(ShA9)にたどり着く。
次にShA9が実際の皮膚でSAによる炎症を抑えるか調べると、ShA9は抗菌物質を分泌してSAを殺すだけでなく、クオラムセンシング機構に働きかけて、SAによる炎症物質の分泌を抑え、皮膚の炎症を抑えることができることを明らかにする。
細菌学的な検討から、ShA9による殺菌効果に抵抗性のSAは存在しても、クオラムセンシングを抑える機能に抵抗性のSAは現在のところ認められないことから、SAによるアトピー皮膚炎の炎症促進効果を断ち切ることは期待できる。
以上の検討に立って、この研究ではSA陽性のアトピー性皮膚炎患者さんをリクルートし、ShA9塗布の安全性を確かめるとともに、ShA9を塗布することでSAを正常の細菌叢に置き換え、皮膚の炎症が治るかを調べている。目的としては第1/2相と言っていいように思える。
もともと皮膚炎が存在するので、コントロールの塗布液でもいろんな症状を訴えるようで、自己申告制の有害事象についてはShA9塗布群より、コントロール群の方が報告率が高い。いずれにせよ、短期間の治験では重大な問題は起こらなかった。
効果だが、まず塗布したShA9の抗菌分子RNAは治療中維持される。不思議なことに、常在細菌のコロニー数が塗布すると上昇している。これと呼応して、SAが分泌する毒素の発現は塗布により強く抑制される。一方皮膚症状については、一定程度の改善が認められているが、短い期間であること、またアトピーを示す病巣の一部だけが対象になっていることから、これはあくまでも参考資料と言っていい。
これを補完するため、マウス実験でSAの毒素を抑制することで炎症が低下し、また常在細菌叢が正常化することが示されているが、これが人間で起こっているかどうかさらに検討が必要になるだろう。
今まで多くの論文を読んできたが、一つの細菌で、黄色ブドウ球菌を抑えて、常在菌を再構築できることを明確に示した研究には出会ったことがなかった。その意味で、この研究は細菌を持って細菌を制するという戦略が可能であることを示す重要な貢献だと思う。また、SAは鼻や皮膚の感染症を起こすこともあることから、ここでも活躍できるかもしれない。
一つだけ気がかりなのはS.hominisは体臭成分の一つだと思うので、気にならないかどうかだが、そんなことはとっくの昔に計算済みだと思う。
菌で持って菌を制す
Imp:
アトピー性皮膚炎を能力を有する計算主体(ShA9)に“お願い”をして武運長久を祈りつつ送り込んで健常な状態へと誘う,というハーネス療法(自然計算的治療)でしょうか?
https://jsai.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_action_common_download&item_id=1905&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1