3月3日に続いて、今日も香港大学からの論文だ。
新型コロナウイルス(Cov2)が、感染の入り口としてSARSと同じACE2を使っていることを示す論文を紹介したのがちょうど一年前だ(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/12537)。ただ、これだけでは全身性の感染は理解できないため、その後neuropilinをはじめ(https://aasj.jp/news/watch/13302)、糖鎖結合タンパク質など、その可能性は広がってきた。ただ、今日紹介する香港大学からの論文は少しレベルが違い、Cov2感染細胞のレパートリーをバソプレシン受容体やアンジオテンシン受容体を持つ全ての細胞へと大きく拡大した研究で、3月2日Cellにオンライン掲載された。タイトルは「Soluble ACE2-mediated cell entry of SARS-CoV-2 via interaction with proteins related to the renin-angiotensin system(可溶性のACE2によりSARS-CoV-2ウイルスはレニンアンジオテンシン系を利用して細胞内へ侵入する)」だ。
この研究は、これまでCoV2感染に使われている例えばVERO細胞などが、極めてウイルスの感染実験に合わせた人為的なシステムで、本当の感染現象を追及できないのではという素朴な疑問からスタートしている。そして、様々な系列のヒト細胞株を集め、Cov2感染実験を行い、VERO細胞と同じ程度の感染が見られる細胞の一つとして腎臓の尿細管由来細胞株HK2を特定する。
あとは、siRNAを用いた遺伝子ノックダウンを網羅的に行い、感染をすり抜けて生き残る細胞でノックダウンされている遺伝子を調べ、ウイルス感染に必要な小胞体輸送システムなどとともに、バソプレッシンシグナルに関わる分子がウイルス感染に関わるとする予想外の結果を得ている。
この結果を確かめるため、生化学的、遺伝学的な実験を組み合わせて、ついに細胞膜から切り出されたACE2とCov2スパイクタンパク質の複合体に、なんとバソプレッシンが結合することで、バソプレシン受容体がCov2の受容体として働くことを明らかにする。また、この過程でACE2がADAM17により切断され、可溶性のACE2として細胞外へ遊離することが必須であることも明らかにしている。
これによりCovid-19感染による腎臓障害の一部は十分理解できるようになったが、このグループはさらに進んで、可溶性のACE2がアンジオテンシン受容体AT1を介して細胞内に取り込まれるという以前の研究に着目し、この経路でCov2感染が起こる可能性も検討し、なんと可溶性ACE2がAT1陽性の細胞へのCov2感染を媒介することを明らかにしている。
他にも細胞学的な詳しい研究を行なっているが詳細はいいだろう。要するに、血圧維持システムとして、細胞膜からACE2を切り離して細胞外に遊離するメカニズムが、そのままCov2の感染を、AT1陽性細胞へと拡大していることが明らかになった。
AT1は免疫系を含む様々な細胞に発現していることから、条件が整うとCovid-19が全身病になる原因がまた明らかになった。今後in vivoの実験系での研究が必要だが、ドグマを疑うところから始めて、新しい可能性を切り開いた優れた研究だと思う。
血圧維持システムとして、細胞膜からACE2を切り離して細胞外に遊離するメカニズムが、そのままCov2の感染を、AT1葉性細胞へと拡大していることが明らかに。
Imp:
コロナ全身病機構ですね
この論文ウォッチを読んで、ふと国立感染症研究所や日本の大学研究室でこのような発想の研究が実施可能なのかと思いました。予算の問題か、自由度の問題か。
日本でも、SARSとACE2の研究をやっていた人がいたのですが、なぜその人たちが活躍できないのでしょうか。よくわかりません。