免疫反応はただ強ければいいと言うものではなく、必要な時に一定期間反応が起こればいい。このため、免疫が高まりすぎると、それを抑える仕組みが働く。本庶先生が発見したPD−1もそのメカニズムの一つだが、T細胞免疫に関して言うと、現在大阪大学の坂口先生が発見した抑制性T細胞(Treg)が主役になる。
現役の頃はTregも一種類で、全ての反応をT細胞のバランスとして捉えれば済んでいたのだが、研究が進むと、B細胞を標的にする免疫反応が起こる濾胞に存在するTreg言い換えればTfrが発見され、自己免疫などを抑えることがわかってきた。
今日紹介するオーストラリア・ジョンカーティン医科大学からの論文は、Tfrがneuritinという分子を介してB細胞免疫を調節することを発見した論文で、4月1日号のCellに掲載予定だ。タイトルは「Follicular regulatory T cells produce neuritin to regulate B cells(濾胞抑制性T細胞はB細胞を調節するためにneuritinを分泌する)」だ。
この研究ではTfr分化に必須のBcl6分子をTregで欠損させてTfrが欠損したマウスを作成し、このマウスではこれまで示されてきたように、自己抗体が高まり、IgEやIgAへのクラススイッチが高まる。またB細胞分化でみると、プラズマ細胞への分化が亢進していることがわかった。
すなわち、Tfrがこれらを抑制していることが明らかになったので、次にその分子メカニズムを探るため、Tfr細胞をT細胞を標的とするTfh細胞で発現遺伝子を比べ、Tfrに強く発現している分子の中で、リンパ節のT細胞とB細胞領域の境界に存在するTfrに特に強く発現しているNeuritinに着目する。
試験管内でヒトT/B相互作用システムにNeuritinを加えると期待通りNeuritinはB細胞内に取り込まれ、特にプラズマ細胞への分化が抑制される、またIgE産生を抑制することを明らかにする。残念ながらneuritinの受容体についてはまだ明らかになっていないが、B細胞に結合するとすぐに細胞質へと移行し、mTORをはじめ様々なシグナル分子をリン酸化して、B細胞の活動調節をしていることを示している。
最後にNeuritinをFox3陽性Tregからノックアウトする実験を行い、ほぼTfr欠損マウスと同じように、IgEのレベルが高まり、胚中心でのプラズマ細胞への分化が高まり、自己抗体の産生が上がること、またこれらの異常をneuritinを投与することで抑制できることも示している。
以上が主な結果で、これまで抑制性T細胞というとIL10やCTLA4をエフェクター分子として使っていると考えてきたが、
- TfrはB細胞を標的にする制御性T細胞で、IL10やCTLA4ではなくneuritinを分泌することで抑制機能を発揮する。
- Neuritinは胚中心でのプラズマ細胞への分化を抑制することで、自己抗体の産生をおさえ、必要な抗原にだけ反応するまでのB細胞の成熟を支える。
- IgEへのクラススイッチを抑えてアナフィラキシーを防ぐ。
を明らかにした。
今まで発見されなかったのが不思議なぐらい、面白い分子で、しかも細胞内でその機能を発揮して様々な分子のリン酸化を調節しているとしたら、全く新しい分野につながる重要な発見だと思う。おそらく、新型コロナ感染を考える上でも重要な気がする。
TfrはB細胞を標的にする制御性T細胞で、IL10やCTLA4ではなくneuritinを分泌することで抑制機能を発揮する
Imp:
新たな種類のTrg。
B細胞を標的にするんですね。