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3月21日 ゲノムからキリンの長い首の秘訣は解けないが、代わりに多くの病気について学ぶことができる(3月17日号 Science Advanes 掲載論文)

2021年3月21日
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2016年、ナッシュビル動物園とタンザニアの研究機関からキリンと同じファミリーのオカピのゲノムが解析され、FGF受容体1が、キリンの長い首の秘密の一端ではないかと言う論文がNature Communicationに掲載された(DOI: 10.1038/ncomms11519)。しかし、100万人単位で遺伝子多型を集めても、ゲノムから形質を予測することは難しいことから分かる様に、この論文で示された結果だけでは、なかなか長い首の秘密は解けないと言うのが印象だった。

今日紹介する中国西安にある西北工業大学を中心とする国際チームからの論文は、同じキリンのゲノム研究ではあるが、これまでよりさらに正確にゲノムを解読し、進化のスピードの速い遺伝子から長い首の秘密を探ろうとした研究で、3月17日号のScience Advancesに掲載された。タイトルは「A towering genome: Experimentally validated adaptations to high blood pressure and extreme stature in the giraffe (高くそびえるためのゲノム:キリンの高い血圧と極端な形態に対する適応を実験的に確かめる)」だ。

これまでのゲノム解析は遺伝子構築までは明確にされておらず、改善の余地が大きかったが、この研究では、まずゲノム自体の解析をlong readやHi-Cデータなども組み合わせて徹底的に行い、15本と言う一見少ない染色体が、どの様に融合分散を繰り返して進化したのかまで、明らかにしている。

その上で、牛やオカピなどとの比較から、遺伝子の中で強く選択を受ける遺伝子や、進化速度が速いと考えられる遺伝子をリストすると、これまで指摘された以上の数、それぞれ101個、359個の遺伝子がキリンの進化で大きく変化していることを突き止める。その多くは、骨格の形成に関わる遺伝子や、特殊な形態を支えるための様々な遺伝子になるが、以前の研究では進化に関わったとしてリストされた遺伝子数が、それぞれ7個、17個であるのと比べると、圧倒的に数が多い。結局、長い首の秘密を知るには、これらの遺伝子全てを統合して形質を予測する情報と技術の開発が必要になるが、時間がかかると思う。

それでもこの研究では、マウスのFGFR1をキリン型に置き換える実験を行なって、骨格が変化しないか調べている。残念ながら首や骨格は長くならないどころか、発生過程では逆に骨格の発達が抑えられるぐらいだ。しかしその後正常に発達し、成熟後は骨密度が高いことが明らかになり、足の細いキリンが重い体重を支えられる秘密がわかる。

圧巻は血圧の実験で、キリンは元々血圧が高いことが知られているが、キリン型FGFR1マウスでは血圧は正常だが、アンジオテンシンで高血圧を誘導すると、キリン型マウスは全く動じないで正常血圧を維持できる。すなわち、FGFR1の変化一つで、高血圧を防げると言う、医学にとっては思いがけないヒントが提供された。

この様に変化のスピードの速い遺伝子を調べていくと、1)血小板活性化に関わる遺伝子、2)心臓拍出量に関わる遺伝子、3)心筋の機能に関わるイオン輸送に関わる遺伝子、4)血圧維持に関わるアドレナリン受容体遺伝子などが、大きく変化していることが明らかになり、あの体を支えるためには、並大抵の変化では到底対応できないことがわかる。

しかし話はこれだけでは済まない。周りを見渡す身体的構造は、当然視覚や聴覚能力の進化を促すはずで、実際視覚、聴覚の異常を伴う遺伝子疾患に関わる遺伝子変異で起こるアッシャー症候群の遺伝子が、他の動物と比べて大きく変化していることもわかる。逆にアッシャー症候群の理解にキリンゲノムが役に立つのではと期待できる。

さらに、あの体で寝るのは大変だと思うが、元々キリンは睡眠時間が短いようだ。驚くのは、これに合わせて、私たちの該日周期を決めているPER1、2も大きく変化しているだけでなく、眠りに関わる遺伝子の進化の跡も見られる。

以上、本当はまだまだ面白い話が出てくる様に思えるが、リストされた遺伝子の関与はほとんど想像しているだけで、今後FGFR1で行なった様な地道な実験が必要になるだろう。

ダーウィンとラマルクの異なる新仮説の説明にキリンは最もわかりやすい例として利用されるが、これからも進化を考えるとき、間違いなく使い続けられると確信する面白い論文だった。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:遺伝子の中で強く選択を受ける遺伝子:101個、進化速度が速いと考えられる遺伝子:359個がリストアップされた。
    2:その多くは、骨格の形成に関わる遺伝子や、特殊な形態を支えるための様々な遺伝子になる。
    3:長い首の秘密を知るには、これらの遺伝子全てを統合して形質を予測する情報と技術の開発が必要になる。
    Imp:
    遺伝子型と表現型を繋げるか?
    少なくとも460個の遺伝子が複雑に絡み合っているようです。

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