AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 5月13日老化の体液説(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

5月13日老化の体液説(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2014年5月13日
SNSシェア
ヒポクラテス、ガレヌスといった昔の医学では身体の中の体液のバランスの乱れが病気の原因とされていた。このため治療では、瀉血やヒルに血液を吸わせるなど、このバランスを戻す事が重視された。その後臓器別の疾患概念、あるいは細胞病理学が主流になるとともに、体液説は医学から消えて行った。しかし今でも書店に行けば一種体液説とも言える観点に立って病気を解説する本が多く売られており、私たちの意識の中に根強く体液説は生きている観がある。驚く事に、体液説は一般人だけに受け継がれているわけではなく、科学者の中には現代版体液説を研究している人達がいる。このグループは通常パラビオーシスと呼ばれる方法、即ち2匹のマウスの血管をつないで体液を共有させる方法を使う。特に研究が進んでいるのが、若い体液で老化組織を若返らせる事が出来るかについての研究だ。これまでパラビオーシスにより様々な組織の幹細胞が若返る事が示されて来た。今日紹介する論文は記憶に関わる脳の海馬の神経結合の可塑性がパラビオーシスや若い動物の血液を注射する事で若返ると言う事を示すカリフォルニア大学サンフランシスコ校研究で、Nature Medicine オンライン版に紹介された。タイトルは「Young blood reverses age-related impairments in cognitive function and synaptic plasticity in mice(若い血液は老化に伴う認知機能とシナプス可塑性の低下を元に戻す)」だ。研究では先ず若いマウスと年寄りマウスをパラビオーシスで結合して5週間待ち、海馬での遺伝子発現を調べ、遺伝子の発現パターンが若返っている事を見つけている。特に脳の可塑性に関わる遺伝子の発現が元にもどった事から、神経軸索から出ている突起を調べると、突起は増加し若返りが観察される。この分子・細胞上の変化が実際の生理機能に反映されているのかを生理学的に調べると、確かに電気生理学、記憶テストなどで改善が見られている。特に記憶は、パラビオーシスではなく、若いマウスの血清を毎日注射する事でも改善する事から将来脳の若返り薬を開発する可能性を期待させる。薬剤開発までには分子メカニズムを明らかにする事が必要だが、残念ながら若い血液が神経細胞のCrebと言う分子のリン酸化を高める事でシナプス可塑性を促進している事以外は明らかでない。特に若返り血清成分についてはまだ闇の中だ。論文を読んで、体液説の伝統が科学にも受け継がれている事を実感する。しかしドラキュラ伝説もまんざらウソではなさそうだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。