進行する腎機能障害は、糖尿病の最も重要な合併症の一つで、急速に高齢化する我が国の医療システムを脅かす重要な要因になるのではと考えられている。ただ、糖尿病の患者さんが同じような経過で腎不全へと進行するのではなく、糖尿病自体の状態で揃えても、急速に進行する人から、進行が遅い人まで、個人差が大きい。
このような個人差を指標に病気の進行に関わる分子を特定する可能性があるが、そのためには患者さんの長期の追跡で経過を把握した上で、指標となるバイオマーカーを検索する必要がある。糖尿病でこのようなコホートが成功した例は、1型糖尿病で50年以上合併症もなく過ごした人(ジョスリン金メダルとして知られている)の糸球体では、ピルビン酸キナーゼM2が活性化されているという研究だろう。
今日紹介する、同じジョスリン研究所から発表された論文は、腎不全への進行速度に関わる分子の探索から、進行を抑えていると考えられる3種類の血中分子を特定したという研究で、6月30日号のScience Tranlational Medicineに掲載されている。タイトルは「Circulating proteins protect against renal decline and progression to end-stage renal disease in patients with diabetes(糖尿病患者さんで末期的腎不全へ進行する腎機能低下を防ぐ末梢血タンパク質)」だ。
この研究では1型糖尿病コホート、2型糖尿病コホート参加者を、7−15年間追跡し、eGFR(濾過率)やACR(クレアチニン/アルブミン比)などの腎不全マーカーとともに、SOMAscanと名付けている方法を用いて、1129種類の血中タンパク質を検査し、この中から腎機能低下カーブと相関するタンパク質を検索している。
79種類のタンパク質が相関ありと特定され、まずその中から腎機能を守る方向に働いているタンパク質を18種類特定している。この中にはピルビン酸キナーゼも含まれる。
この中から各タンパク質間の相関性から、異なるメカニズムで働いていると思われる3種類のタンパク質を特定し、その代表として血管リモデリングに関わるAngiopoietin 1,炎症に関わる TNFSF12、そして腎臓の発生と幹細胞システムに関わるFGF20を選び出している。
次に、この3つの数値を組み合わせて、それぞれの分子のレベルが、1)全て高い、2)2種類が高い、3)1種類だけ高い、4)全部低い、のグループに分け腎機能の低下を調べると、全項目で高いグループ1の人で腎不全が進行しないのに対し、全部低いという人では末期状態へと急速に進行することがわかった。
結果は以上で、メカニズムや治療可能性についてはこれからの研究になる。しかし、アンジオポイエチンに関しては、私たちの研究室に所属していた植村さんが、網膜の血管で、ペリサイトが遊離してもアンジオポイエチンにより血管の構築を守ることを示しているし、FGF20はネフロンの発生と維持に関わることを考えると、なるほどと納得できる結果だ。唯一、炎症誘導性のTNFSF12が機能を守るという結果は意外で、今後の研究が重要だと思う。
以上、目的を持ったコホート研究の重要性がよくわかる論文だと思う。
糖尿病性腎症の患者さんには有り難い研究。この研究の延長で動脈硬化との関連もわかるとすばらしいと思う。
それぞれの分子のレベルが、1)全て高い、2)2種類が高い、3)1種類だけ高い、4)全部低い、のグループに分け腎機能の低下を調べた。
全項目で高いグループ1の人で腎不全が進行しないのに対し、全部低いという人では末期状態へと急速に進行する。
Imp:
7-15年の前向き研究。
ヒトを使った研究の大変さも実感できます。