5月27日:教育効果を社会への還元度で評価する(Circulation誌5月20日号掲載論文)
2014年5月27日
私も熊本大学で免疫学、京都大学で発生学を担当して、学生教育に関わった。正直自分の講義がどれほどの効果を発揮するか考える余裕はなく、効果のほどは結局試験に頼るだけだった。久しぶりに教え子と出会ったりして、私の講義をどう受け止めたなどと長期効果を聞くと冷や汗ものだ。しかし、試験以外の教育効果判定法はあるのかについては、なかなかアイデアが出てこないのが実情だ。今日紹介するハーバード大学からの論文は、この問いに対し新しい評価法を提案していて面白い。5月20日号のCirculationに掲載された論文で「An online spaced-education game among clinicians improves their patient’s time to blood pressure control: a randomized controlled trial (医師がオンライン版間隔学習ゲーム行うとその患者さんは早く血圧がコントロールされる:無作為対照研究)がタイトルだ。もともとこのグループは医師の新しい教育システムとして、spaced-education(SE:間隔教育)を開発し、その効果を調べて来たグループだ。SEとは一定の知識量を教えてから試験で評価する従来の方法ではなく、問題を一問づつ与えてその都度評価し、少し時間を置いて次の問題へと進む方式の教育プログラムで、医学だけではなく他の分野でも検証が進んでいるプログラムらしい。この研究では、質問、説明、評価(他の参加者との競争)の組み合わせを32問、ゲーム形式で与え、正しい答えが得られたときだけ次の設問に進むと言うプログラムを作成している。次に300人余りの開業医をこのプログラムを受けるグループと、そうでない対象グループにランダムに振り分ける。ここまでなら普通の研究と変わらないが、この後が面白い。普通なら開業医に試験を受けてもらって評価するかわりに、この研究ではそれぞれの開業医にかかっている高血圧の患者さんの血圧コントロールの達成度で評価している。即ち実地臨床現場で、教育が役に立っているかどうかを確かめている。この論文の結論はプログラムの効果が確かにあって、それを受けた医師にかかっている患者さんは治りが早いと言う結果だ。確かに有意差検定も含め統計学的処理が行われており、信頼すべき結果なのだろう。しかし正直本当に効果があるのか少し疑問に感じる。有意差があるとは言え、例えば血圧が目標値に落ち着くまでの時間が、プログラムを受けた医師にかかっている患者さんは142日、そうでない場合は148日と言った具合だ。今後、もっと違ったプログラムを同じように現場で検証して行くことが必要だろう。ただ、医師への教育効果を、その医師にかかっている患者さんの治療成績で評価すると言う発想にはなるほどと納得した。