6月26日、 MECP2が、従来考えられていたようにメチル化CpGに結合するのではなく、メチル化、あるいはハイドロオキシメチル化されたCAリピートと結合して、ヌクレオソーム形成を調節していることを示したストラスブール大学からの研論文で、この分野の研究方向を大きく変える可能性を持つ研究を紹介したところなのに(https://aasj.jp/news/watch/16028)、今度はこれまで全くわかっていなかった、CpG island型プロモーターの転写を決定する分子BANPがスイス・バーゼルのミーシャ〜研究所から発表された。今、DNAメチル化についての研究が急速に進展しているのが感じられ、ワクワクする感じが湧いてくる。タイトルは「BANP opens chromatin and activates CpG-island-regulated genes(BANPはクロマチンを開いてCpG island により調節される遺伝子を活性化する)」で、7月7日Natureにオンライン掲載された。
house keeping geneと呼ばれる、細胞の維持に必須の遺伝子は、TATAボックスと呼ばれるプロモーターを使わず、CGくり返しが多く集まったCpG island(CGI)の中に存在するCGCGモチーフを転写開始点として使っていることが知られている。これまで、CGCGサイトがメチル化されるとRNAポリメラーゼ(PolII)のリクルートが阻害されていることはわかっていたが、標的がCGCGであまりに特異性がない領域のため、このモチーフに結合してPolIIをCGIプロモーターにリクルートする分子の発見は難航していた。
このグループは、ヌクレオソームとの結合性が低い、すなわちタンパク質との結合がほとんど起こらない人工的なCGCGエレメントをマウスES細胞の染色体に導入し、細胞内でこの人工的CGCGが間違いなく特異的なタンパク質と結合していることを、タンパク質の結合していない場所をメチル化して、結合部位だけを浮き上がらせる、single molecule footprintingという手法で確認している。
これがわかると、このモチーフに結合するタンパク質を特定できるという確信が得られ、最終的にCGCGに結合するタンパク質BANPを特定している。
ES細胞でBANPが結合している部位を調べると、期待通りhousekeeping 遺伝子のCGIプロモーター部位が1200個ほど特定できる。また、メチル化されたCGプロモーターには結合していない。逆に、3種類のDNAメチル化酵素が全て欠損したES細胞では、結合サイトが増える。次にこれまで知られているCGIプロモーターの転写に関わる分子存在下でBANPの機能を調べると、遺伝子発現を3000倍にも高めることができる。以上のことから、BANPがこれまで謎に包まれていたCGIプロモーターの転写を決定する因子であると結論している。
最後に、クロマチンやヌクレオソームとBANPの関係を調べると、BANPはヌクレオソームの結合を阻害し、クロマチンをオープンにしていることが推察される。これを証明するため、薬剤を用いて分解できるようにしたBANPを用いて、BANPを細胞から除去すると、1時間でクロマチンが閉じはじめ、またヌクレオソームが結合しはじめていることを示している。
以上まとめると、house keeping遺伝子のCGI型プロモーターは、メチル化されるとBANPは結合できないため転写できない。一方、メチル化されないとBANPが強く結合して、ヌクレオソームとの結合阻害を介して、クロマチンをオープンに保つことで、高い転写活性を維持する。
発生学的には、他のCGIとの関係や、そもそもメチル化によるプロモーターの不活化機構も合わせて理解することが重要だが、ガンや老化のように、メチル化自体が変化する場合、BANPの役割が高まってくる。いずれにせよ、クロマチンをオープンにする、ヒストン修飾とは異なる機構が続々明らかにされつつあるが、そのスピードは速い。
house keeping遺伝子のCGI型プロモーター:
1:メチル化されるとBANPは結合できないため転写できない。
2:メチル化されないとBANPが強く結合しクロマチンをオープンに保つことで高い転写活性を維持する。
Imp:
CGI型プロモーターに結合し転写活性を調節する蛋白質の発見。