6月14日:パーキンソン病の細胞治療再開(6月12日号Nature記事、ニュースフォーカス)
2014年6月14日
6月8日、このホームページでパーキンソン病患者さんに移植された胎児中脳のドーパミン産生細胞が10年以上にわたって脳内で生着・機能していることを報告した論文を紹介した。今日紹介する6月12日号Natureに掲載されたニュースの焦点は、同じ治療が全ヨーロッパレベルで再開されようとしていることをレポートしている。タイトルは「Fetal-cell revival for Parkinson’s(胎児細胞がパーキンソン病の治療にリバイバルする)」だ。胎児中脳移植が初めて1987年スウェーデンルンド大学で行われて以降、同じ治療が様々な施設で試みられた。ただ施設間で結果が一定せず、またアメリカから否定的な治験結果が報告されたため、2003年この治療に関わる施設が集まって、治療を一時的に中止し、既に移植を受けた患者さんの経過を先ず見ることを決定した。その後2006年、英国のBakerとスウェーデンのBjoerklundがヨーロッパでこの治療を行った経験を持つ7施設に呼びかけ、これまでの結果を持ち寄り精査し、次に行うべき臨床試験のありかたについて議論を行った。この精査から、まだ初期段階の患者さん、10万個以上のドーパミン産生細胞を投与できた患者さんで細胞移植の高い効果が見られることが確認された。この結果に基づき、7施設共通のプロトコルが決定され、EUの援助で同じプロトコルに基づく治験が、英国、スウェーデン、フランス、ドイツの7施設が協力し、150人の患者さんをリクルートして再開されることになった。この決定を受けて先月我が国も参加したパーキンソン病グローバルフォース会議が行われ、胎児脳以外の細胞を用いた臨床試験も含め治験の実施方法について調整している。再開への機は熟した。7月にはついにケンブリッジ大学で新しいプロトコルに基づく最初の細胞移植が行われることになった。今回対象に選ばれる患者さんは発症後4年、年齢が55歳前後で、不随意運動が無い方に限られている。この結果に応じて対象を拡大した治験が更に行われるだろう。この記事の最後に、モラトリアムが始まった2003年と比べたときのこの分野の進歩について言及し、京大CiRAの高橋チームの臨床試験についても新しい可能性として期待を寄せている。本来なら高橋プロジェクトでも、ヨーロッパで再開される細胞治療研究と同じ対象や検査方法を用いて臨床試験を行うことが望ましい。しかし、我が国で発症後4年と言う初期の患者さんを本当にリクルートできるのか?もちろん、最初は安全性重視のI/II相研究が行われると思うが、来年には用意が全て整うのであれば、出来る限りプロトコルなどを早期に公開して行くことが重要だろう。スウェーデンで始まったパーキンソン病の細胞治療のこれまでの歴史を振り返ると、焦らず騒がず、必要であれば退却もいとわず、しかし着実に前進するBjoeklundさん達の長期的視野と熱意を感じる。現役時代プログラムディレクターとして10年近くCiRA高橋プロジェクトを見て来た私は、高橋さんも同じようにサルを使った安全性を保証するための実験を地道に繰り返し、現在のプロトコルを完成させて来たのを知っている。時間がかかってもいい。是非多くの国と協力して、世界の標準治療を開発して欲しい。