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6月17日:スペイン風邪再流行の警告(6月11日号 Cell Host & Microbe誌掲載論文)

2014年6月17日
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多くの因子が関わる過程についての未来予測にはシミュレーションが欠かせない。しかしシミュレーションには多くの情報と理解が必要で、どの分野でも可能と言うわけではない。今日紹介する論文は1918−1919年にかけて世界中で5千万人の死者を出したスペイン風邪が再発する可能性をシミュレーションした医科研の河岡グループの研究だ。論文は6月11日号のCell Host & Microbe誌に掲載され、タイトルは「Circulating avian influenza virus closely related to the 1918 virus have pandemic potential (1918年スペイン風邪インフルエンザウィルスと関連するビールスが現在も世界中に拡がっており、世界流行を引き起こす可能性がある)。」だ。繰り返すが、この研究の目的は「スペイン風邪は再燃するか?」を科学的に検証することだ。1918年の医学は現在とははるかに遅れていたとは言え、スペイン風邪は歴史上最悪の世界流行で、再発すれば大問題になること間違いない。ゲノム研究から既にスペイン風邪のゲノムは明らかにされており、A型インフルエンザH1N1であることがわかっている。インフルエンザは人に感染するようになるまでには鳥に保持されていることが知られているので、研究では先ず鳥から分離されたインフルエンザウィルスのゲノム配列をスペイン風邪ウィルスと比べ、似たウィルスが存在するか調べている。次にビールスの活性を決めるそれぞれのユニットごとにスペイン風邪に近い配列を選び、それを集めたスペイン風邪に似たウィルスA1918-likeを作成すると、スペイン風邪よりは活性が弱いが、それでも実験動物の症状を起こす病原ウィルスに転換している。人から人への感染にどの部位が重要かわかっているので、更にこのウィルスを人から人へと感染できるようにアミノ酸を変換し、フェレットで感染を続けて行くと今度は極めて毒性の強いビールスが現れてくる。このビールスを培養細胞で増やして遺伝子を調べると、感染性に関わるHA部分とビールスの増殖に関わるRNAポリメラーゼに新たな変異が特定できる。更にこのような変異は人から人へと伝搬するにつれ蓄積されることもわかった。このように現在自然に存在するビールスのアミノ酸変異が蓄積するだけでスペイン風邪に匹敵するインフルエンザビールスが誕生することが明らかになった。現在自然に存在するビールスの配列を比べると、アミノ酸で数個程度しかスペイン風邪と違わないビールスが世界中に存在している。従って、自然にスペイン風邪型のビールスが生まれる可能性は十分あると言うのが結論だ。実験室で遺伝子改変を行う研究に見えるが、将来を憂いたシミュレーション研究と言っていい。是非行政もこの様な結果を基礎に、対策についてシミュレーションして欲しい。前回河岡さんの仕事を紹介したとき、この様な仕事が出ているのに新しい世界流行を防げなかったとすれば行政の責任だと述べたが、今回もその点を強調したい。幸い、タミフルの効果についても調べられており、有効だと期待できるようだ。1918年当時と比べた新しい手段をどううまく使うか、行政の腕の見せ所だ。金を出して薬を買いあさるのが政策なら、行政など必要ない。

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