SLEは全身の炎症を特徴とするが、以前からこの炎症の主役は、1型インターフェロン(IFN1)の過剰発現であることが示唆されてきた。事実、IFN1を誘導する細胞内DNAの分解や、自然免疫系遺伝子の多型が強くSLEと相関することも知られている。そこで次の課題は、IFN1の過剰発現を誘導するDNAの起源を調べることになるが、中でもミトコンドリア由来のDNAは最も疑わしい刺激ではないかと考えられてきた。
今日紹介するコーネル大学からの論文は、赤血球内に処理できずに残存しているミトコンドリアがマクロファージに取り込まれてIFN1を誘導して、SLEの炎症の強さを左右していることを示した研究で、8月19日号のCellに掲載された。タイトルは「Erythroid mitochondrial retention triggers myeloid-dependent type I interferon in human SLE(SLE患者さんに見られる赤血球内のミトコンドリア残存が白血球を介してIFN1の引き金になる)」。
我々の赤血球からミトコンドリアは完全に除去されている。この研究は最初から、この過程がSLEで障害されていると決めて研究を行い、SLEでは患者さんによっては30%を超える赤血球にミトコンドリアが残存していることを発見する。そして、SLEの重症度とミトコンドリア残存赤血球(MtRBC)の数が完全に相関することを発見した。実際には以前にも報告されていたようだが、その後ほとんど研究が進まなかったというのに逆に驚いてしまうほどの発見だと思う。
この結果は、赤血球に残ったミトコンドリアがマクロファージに取り込まれることでIFN1炎症が高まることがSLEの病態を説明する可能性を示唆している。そこで、SLEでなぜミトコンドリアが赤血球内に残存してしまうのかという問題と、MtRBCがIFN1を誘導するのか、の2つの問題に取り組んでいる。
残念ながらなぜSLEの赤血球でミトコンドリア処理異常が誘導されるのかについては不明のままだが、正常赤血球の成熟過程とSLE赤血球を丹念に調べ。SLE赤血球のミトコンドリア残存を誘導するメカニズムを探索している。赤血球成熟過程では、酸素濃度の上昇に伴いHIF-1αが分解され、その結果HIF1α支配分子の発現が低下、代謝が酸化リン酸化へシフトするが、このとき同時に上昇するミトコンドリアタンパク質のユビキチンによる分解過程が、SLE赤血球分化過程では傷害されていることを明らかにしている。すなわち、何らかの過程でHIF1αの分解が阻害された結果、ユビキチン経路によるミトコンドリア分子の分解が遅れ、ミトコンドリアが赤血球に残存すると結論した。
最後に、MtRBCがIFN1誘導シグナルになるかどうか、MtRBCを抗赤血球抗体と結合させた後、マクロファージに貪食させる実験を行い、MtRBCだけでIFN1が誘導されることを示している。そして、実際の病気との関わりを調べる目的で、患者さんをMtRBC陰性、MtRBC陽性・抗赤血球抗体陰性、そして両方陽性群に分け、IFN反応性遺伝子発現を調べると、MtRBC陽性群はIFN1スコアが高く、また両方陽性群ではさらに上昇していることを示している。
以上が結果で、SLEの病態、特にIFN1による炎症に、赤血球の分化異常と、その結果としてのMtRBC生成が関わるという新しいシナリオを示した、専門家向きだが面白い研究だと思う。
SLEの病態、特にIFN1による炎症に、赤血球の分化異常と、その結果としてのMtRBC生成が関わるという新しいシナリオを示した研究。
Imp:
SLEの引き金の一つ=赤血球分化異常。