ハンチントン病のメカニズムについては理解が進んでおり、ハンチンティン遺伝子内のCAG繰り返し配列が増大して、生産されるタンパク質のポリグルタミンがタンパク質を凝集させ、結果細胞内に蓄積したタンパク凝集塊が、細胞ストレスを誘導し、神経変性に至ると考えられている。
このように、原因遺伝子がわかっているため、究極の目標としてCAGリピート数を正常化した遺伝子に戻す遺伝子治療、また当面これに変わるものとしてハンチンティン遺伝子の発現量を低下させる遺伝子治療の治験が進行している。
CAGリピート病で重要なことは、原因遺伝子が何であれ、実際に細胞死を誘導するのが、タンパク質の凝集を引き金とする細胞ストレス反応で、この過程を制御できれば病気の進行を遅らせることができる。
今日紹介するスペイン・マドリッド、オチョア分子生物学センターからの論文は、RNAのポリA添加部位に結合し翻訳レベルを変化させるCPEBの異常がハンチントン病(HD)ストレス反応の重要な要因であることを突き止め、この翻訳異常に起因するビタミン不足を補うことで、HDの進行を遅らせる可能性を示した研究で、9月29日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「CPEB alteration and aberrant transcriptome-polyadenylation lead to a treatable SLC19A3 deficiency in Huntington’s disease(CPEBの変化による異常なmRNAポリアデニル化によりハンチントン病で発生するSLC19A3欠損症は治療可能)」だ。
ショウジョウバエを用いたモデルで、CAGリピート病ではCPEBの異常が起こることがわかっており、この研究ではまずHDの患者さんの線条体組織でのCPEBの発現を調べ、CPEB1が異常に上昇するのに対してCPEB4の発現が低下していることを発見している。
同じパターンがマウスのHDモデルで見られることを確認した上で、このCPEB1異常によりポリAの変化が見られるmRNAを調べると、ほとんどのmRNAでは変化がないものの、おおよそ9%のmRNAでポリAが短く、残りの9%で長くなっていることを発見している。
そして驚くことに、ポリAの長さの変化が見られるmRNAの多くが、HDだけでなく、アルツハイマー病やパーキンソン病で発現に変化が見られる遺伝子であることがわかった。すなわち、HDで見られるCPEBの変化により、神経変性疾患に関わる遺伝子のmRNAのポリAが選択的に変化させられることが明らかになった。またこれら遺伝子の多くでは、ポリAの長さが低下し、その結果翻訳が低下することを確認している。
今後ポリAに変化が起こった遺伝子リストについて、HDの病態を調べる必要があると思うが、この研究ではSlc19a3と名付けられたビタミンB1の細胞内へのトランスポーターに着目した。というのも、この分子の変異により脳基底核の変性が起こることが知られており、またこれをビタミンB1とビタミンB7の大量投与で抑えられることが知られているからだ。すなわち、HDでもSlc9a3変異と同じことが起こっている可能性がある。
実際、これらビタミンの代謝物の変化はHD患者さんやマウスモデルでも見られることから、マウスモデルを用いて生後3週目から飲み水を通してB1、B7の大量投与を行うと、線条体の萎縮を防ぎ、運動異常の出現をかなり抑えることができることを明らかにしている。
同じ改善は、HDマウス線条体にCPEB4を過剰発現させることでも見られることから、CPEB1とCPEB4のバランスを調整することで、ポリAの長さが正常に保たせられる可能性も示している。
以上、早期診断、早期治療開始が重要だが、HDをビタミン療法で治療できる可能性は画期的だ。さらに、他のCAGリピート病でも同じ可能性もあることから、変性疾患治療に大きな福音となることを期待したい。
原因遺伝子がわかっているため、様々な遺伝子治療の治験が進行している。
Imp:
ビタミンでの治療、遺伝子治療etcと、難治性と考えられていた疾患に新たな光明が差す時代。
遺伝子治療など、生命科学基礎研究を最短コースでベットサイドへの投入可能な方法だと思います。
目が離せない領域のひとつ。