これまで何度も相分離の論文を紹介し、さらにYoutubeでの解説も行ってきたが、無数の分子の漂う細胞内で、特定の分子を集合させることで、特異的で効率の良い信号を発生できる素晴らしい物理法則だ。これまでの研究を見ていると、特異的高効率のタンパク質反応が起こる状況では、一度は相分離の可能性を疑った方がいいとすら言える。
そんな例が自然免疫で、様々な刺激に反応してNLRP分子がインフラマゾームと呼ばれる大きなコンプレックスがシグナル発生の中心になる。実際、これまで免疫シグナルに関わるいくつかの分子が相分離を起こすことが示されてきたが、インフラマゾームの主体NLRPについてはその証拠は見つかっていなかった。
今日紹介する中国科学技術大学とハーバード大学からの共同論文はNLRPの一つNLRP6が二重鎖RNAによる相分離により顆粒シグナル伝達の核を形成することを示した研究で11月11日号のCellに掲載された。タイトルは「Phase separation drives RNA virus-induced activation of the NLRP6 inflammasome(相分離がRNA ウイルスによるNLRP6インフラマゾームの活性化に関わる)」だ。
NLRP6は直接ウイルスなどのRNAと結合して活性化されることが知られているが、この研究ではNLRP6に結合するRNAの性状について詳しく検討し、NLRP6単独で二重鎖RNA(dRNA)に結合し、RNAの長さが長いほど結合活性が高いことを確認している。
その上で、蛍光標識したNLRP6にdRNAを加える実験から、NLRPがLRRドメインを介して相分離し、さらに相分離の形成にNLRP内に存在する天然変性タンパク質領域(IDR)が必須であることを明らかにする。
試験管内で相分離を確認した後は、細胞内や生体での機能の検討へ進んでいる。期待通り、蛍光標識したNLRP6を発現する細胞株に、二重鎖RNAを導入すると相分離した小さな液滴が形成される。そして、この形成にはIDRが必須であることも示している。
生体内での機能に関しては、相分離がモニターできるマウスを作成し、マウスのコロナウイルスを感染させたときにRNAとNLRP6が凝縮した液滴が形成され、またこの液滴が形成できない変異型NLRP6では、インフラマゾームに依存したウイルス抵抗性が強く抑制されることを示している。また、元々NLRP6の発現が高い小腸上皮でも、ロタウイルス感染によりNLRP6の相分離が誘導され、抵抗性に関わること、また時によって相分離体を通してNLRP9も巻き込み、高いウイルス検知を実現することまで示している。
ここまでは、相分離の新しい例が付け加わっただけだが、最後の実験は面白い。インフラマゾームは複合体を形成した後、様々な分子と反応して顆粒のシグナルを伝達する。当然これらの分子は、NLRP6の相分離体の中に引き込まれて活性化されると考えられる。
この研究では、NLRP6の下流シグナル分子としてASCとDHX15を取り上げている。ASCはカスパーゼ活性化を介してIL1やIL18誘導に関わり、DHX15はインターフェロン誘導に関わることが知られている。この研究では、それぞれの分子がNLRP6相分離体内に濃縮されているだけでなく、相互作用する分子により、相分離体の物理性質が変化することを示している。特に、ASCと相互作用することで、相分離体の流動性が低下し、より硬直した、あるいは安定な構造が形成されることを示し、NLRP6相分離体が多様な状態をとることで、それぞれのシグナルのファインチューニングが行われていることを示している。
相分離の広がりを感じさせる面白い論文だが、明日も同じ号のCellに掲載された、また新しい相分離の側面をのぞける論文を紹介することにする。
ASCと相互作用することで、相分離体の流動性が低下し、より硬直した、あるいは安定な構造が形成される。
NLRP6相分離体が多様な状態をとり、それぞれのシグナルのファインチューニングが行われている。
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NLRP6相分離体は多様な状態を取り得る。
ソフトマターの不思議です。