DNAは、放射線、活性酸素などの物理的要因や、転写時のメカニカルストレスなどで切断されることが知られている(double strand break:DBS)、主にhomology directed repair, nonhomologous endo joiningと呼ばれる2種類の機構に加え、microhomology mediated end joiningと呼ばれる機構も動員して修復が行われる。このとき修復ができないと細胞はアポトーシスで消滅する。また、この修復過程で染色体異常が発生する。これが、例えば被爆者の方たちに、染色体転座が高率に発生する原因になっている。
それぞれの過程には多くの分子が参加しており、ある程度勉強していても、なかなかその詳細が頭の中に浮かんでくることはない。ただ、以前紹介したRepair-seqという技術は、専門外の人間にもこの過程をある程度整理させてくれる美しい実験システムだ。この方法については明日zoomでワイワイ議論し、それをYoutube配信するので是非見てください(https://www.youtube.com/watch?v=Hz9tCq8xWiA)。Zoomに参加したい人もメールを送ってもらえれば、アカウントを送ります。
さて、DBSは外界からのストレス以外でも起こる。例えば抗体やT細胞受容体の遺伝子再構成は、まさにDBSと修復をより調節的に進めることで可能になっている。そして私たち全ての生物に最も重要なのが、生殖細胞の減数分裂時に起こる、組み換え過程で、それぞれ特別のメカニズムを発達させている。
今日紹介するスローンケッタリングがんセンターからの論文は、減数分裂時に起こる組み換えでも、頻度は低いが特殊な変異が発生し、これが親には見られないのに、子供が生まれたときから遺伝子変異を持っているde novo変異の重要な原因になることを示した研究で11月24日号のCellに掲載された。タイトルは「De novo deletions and duplications at recombination hotspots in mouse germlines(マウス生殖細胞系列で組み換えホットスポットに見られるde novo欠失と重複)」だ。
メカニズムについては私もほとんどフォローしていなかったが、減数分裂時の遺伝子組み換えは、染色体上に散らばる3万カ所の組み換えホットスポットにSPO11という酵素にいりDBSが入るところから始まる。このとき、隣接するホットスポットに切断が入ると修復前に様々な変異が入る可能性があるので、一回の減数分裂では近接するホットスポットに同時にDBSが入らないよう、ATMにより使えるホットスポットが調節されていると考えられてきた。
この研究では、相互の距離が近いホットスポット同士に着目し、近接するホットスポット同士でDBSが起こる頻度をATMの有り無しで比べるところから始め、ATMが存在しないとき、近接するホットスポットでDBSが入り、間が欠失する確率が高まることを示している。
減数分裂時の染色体組み換えは正確に行われると考えられているが、この結果は原理的に近接するホットスポットに同時にDBSが入る可能性があること、ATMがこれを抑えるが、低い確率ではあっても(1千万回に1回程度)正常細胞で同じ変異が起こり、これが生殖系列に新しい変異を導入する可能性を示唆している。
このまれな可能性を確実に捉えたことが、この研究のハイライトだが、後はSPO11によるDBSの入り方、またその結果、遺伝子重複、欠失したDNAによる環状DNAの形成、ホットスポット内の複数のDBSによるミクロ欠失、挿入変異の発生などが起こることをメカニズムとともに示しているが、詳細は省く。
いずれにせよ、組み換えのホットスポット、特に近接するホットスポットが生殖細胞発生過程のde novo 変異発生の起点になっているという事実は、現在加速しているde novo変異と病気との関わりに新しい視点を与えてくれることは間違いない。
以上、DBS修復機構の研究は大変だが、ゲノム多様性から病気まで、人間の理解に必須の課程だ。研究を容易にするRepair seq勉強会に是非多くの人が参加して欲しいと思っている。