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7月17日:捏造に刑事罰を?(7月号British Medical Journal記事)

2014年7月17日
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もちろん小保方問題に触発された企画ではないと思うが、7月号のBritish Medical Journalに論文捏造に刑事罰を科すべきかどうかについて識者の賛成と反対の意見が出ていた。賛成意見を述べているのはトロント小児病院のBhuttaさん、反対意見はオタゴ大学内科のCraneさんだ。是非紹介したいと思ったのは何よりも両方の意見がこれまでの捏造についての包括的知識に基づいて述べられている点で、決して一つの事件を巡って議論が行われているわけではない点だ。どうしたら知識が得られるのか?実際には捏造に関して多くの論文やレポートが出ている。誰でも手にすることが出来るはずで、我が国でこの問題を真剣に議論しようと考えている皆さんはこの記事に引用されている文献に目を通して欲しい。とはいえ、かく言う私もこの問題が起こるまでは捏造問題を考えたことはなかった。ただ今回の問題を考える意味で、最近になって例えば優秀(に見える?)若者が主役になった点ではよく類似している大阪大学医学部での捏造事件の資料を集めたりし始めた所に、この記事を目にした。この2人の意見を読んで先ず驚いたのは、1977年まで論文撤回が一回もなかったこと、その後撤回された論文は2400に及び、大体20000編の論文の内1編は撤回されることだ。しかし2000年に入って撤回論文数はうなぎ上りで、1970年代の10倍には達しているようだ。これは撤回論文の話で、捏造になるとその数は10倍になるのではないだろうか?はっきり根拠はないが、研究者に本音の調査を行ったFanelliさんの調査では、2%の研究者がデータを加工した経験があると言っており、捏造データの数はもっと多いかもしれない。実際3月14日ここで紹介した治験論文の9割で何らかの間違いがあることを知ると、この分野の論文をどう信用していいのか途方に暮れる。しかし、電子媒体のなかった私たちの頃でも、顕微鏡像を出す時どうしてもきれいな写真を探したことは間違いがない。調査によって、捏造が日常茶飯事になっていることを理解した上で、Bhuttaさんは、捏造が患者さんや社会の大きな損失につながる以上、刑事罰を科すべきと論じる。ここで問題にされたのは、3種混合ワクチンが自閉症の原因になると言う研究や、鬱病の薬剤でGSKが副作用を隠した例を挙げている。そして、捏造を起こした人達のその後を調べると、多くは復権を果たしており、その結果捏造リスクは低いと勘違いしてしまうことを指摘している。いずれにせよ、刑事罰にすることでどのケースにも一定の基準が適応できると言うわけだ。実際、阪大のケースと、東大分生研のケースではペナルティーの重さが全く違う。この様な差は一般には受け入れ難いだろ。飲酒運転と公務員処分に関してコンセンサスを得た時の様な一律のルールを造ることが必要だと思う。一方Craneさんは、刑事罰を科するのは間違っていると論じている。理由は明確ではないのですこしまとめにくい。強いて言えば、捏造は余りにも日常茶飯事で、患者さんの命に関わる例から、ほとんど個人的な事件まで多様で、法律を造るのは不可能だとしている。そして例として、筑波大学医学部・東邦大学の麻酔科に勤務していた藤井医師が172編の論文を撤回した話に触れている。即ち、論文がないと職を失うと言うプレッシャーで、術後の吐き気の数を書き換える様な小さな捏造の刑事罰をどう定義すればいいのかと問うている。最後に捏造問題が最近急増している理由は、研究社会の格差問題であることを指摘し、この問題に私たちは真剣に取り組むべきとしている。では私はどうかだが、Craneさんの意見に賛成だ。ただ、一元的に捏造に対処することは重要だ。その意味で、英国にはUK Research Integrity Office,米国にはUS Office of Research Integrityがあるが、この様な機関を我が国も活用すべきだと思う。しかし我が国ではどの部署がこの組織に当たるのだろう?
  1. Jim Fox より:

    刑事罰による規制が賢明か、妥当かは、古くから、中絶、ヒト胚侵害、クローン・キメラ・ハイブリッド、間薬物自己使用、青少年保護条例、企業秘密漏示、プライバシー侵害など、対象は変わることはあれ、綿々と続いてきた刑事法の議論。また、新しい問題ですが、面倒にならずに最後まで議論をしておくことが必要だと思います。

    1. nishikawa より:

      私はIntegrity officeを造ること以外、余り規制は必要ないと思います。ただ、アカデミアとしての処分は一元的に対応することが大事です。大学や研究所ごとに処分が変わるのは問題でしょう。

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