トップジャーナルに掲載された気楽に読める論文第二弾は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校からの論文で、一般的に信じられている「人間はエネルギー効率の高い身体を獲得したおかげで、長距離を移動し、食料を調達し、エネルギーを消費する大きな脳を維持することが出来るようになった」という通説を、現存する狩猟採取民と、半猟半農の民族を、類人猿と比べることで再検討した研究で、12月24日号のScience に掲載された。タイトルは「The energetics of uniquely human subsistence strategies(人間特有の生存戦略のエネルギー論)」だ。
実際には驚くほど長い論文で、ここまで言っていいのかと思うほど、人間進化について考えが述べられており、実際には読みにくい論文と言える。しかし、行ったことは、データベースや、フィールドに持ち込んだ簡易レスピロメトリーで測定したエネルギー消費と、エネルギー摂取、またエネルギーを確保するための労働を測定したのが実験の全てといえる。
さて、人類の進化を遡ると、完全に直立して狩りを行う直立原人の発生以後の脳の急速な進化、および1万年前後に起こる農耕の始まりが、エネルギー調達に関する最も重要なエポックになる。もちろん、これを再現することは出来ないので、代わりにタンザニアの狩猟採取民ハヅァ族を250万年前の進化代表、そしてボリビアのツィマネ族を農耕と狩猟を行う1万年前の進化代表として選んで、それぞれのエネルギー代謝を調べている。
結果は予想に反し、類人猿と比べて人間がエネルギー効率が高いというのは間違いで、実際には生存にサルより遙かに高いエネルギーが必要なことが明らかになった。この要求に対応して、人間が食物を獲得する効率は高い。これを支えるのが労働効率で、短い時間で多いエネルギーを獲得するようになる。当然のことながら、農耕が始まるとエネルギー生産の労働コストは下がる。
以上が結果で、人間の進化はエネルギー生産効率の上昇により、生きていくためのコストをさらに高めることが可能になった結果、エネルギーコストの高い大きな脳の維持が可能になった過程だと結論している。
データを見て個人的に一番気になったのが男女差で、農耕ですらエネルギー生産が男性の仕事と分業が進んだ点だ。一方サルでは、男女差は人間ほど大きくない。また、この分業は農耕とともにさらに大きくなっている。今後、この分業体制を生み出した原因について探ってみるのも面白いと思う。
しかし、この研究で示された現存の狩猟採取民とサルのエネルギー論が、本当に直立原人とサルの違いを反映しているのかはわからないと言っておいた方が良さそうだ。
人間の進化はエネルギー生産効率の上昇により、生きていくためのコストをさらに高めることが可能になった結果、エネルギーコストの高い大きな脳の維持が可能になった過程だと結論している。
Imp:
産業革命以降、この傾向に増々拍車がかかり、今や“脱炭素問題”・“世界的パンデミック”etcに
頭を抱える人類。