FGF21を最初に報告したのは、京大薬学部の伊藤先生で、京大の薬学部で行われた何かのミーティングで伊藤先生自らがこの分子について発表されていたのを聞いたのを覚えている。ただ、そのときは機能がよく分からず、21種類ものFGFファミリーがあるのかと言う印象以外残らなかった。
しかし最近になって褐色脂肪細胞のブドウ糖取り込みを誘導し、白色脂肪組織の脂肪分解を促進することが明らかになり、FGF21はレプチンに並ぶ代謝ホルモンとしてブレークしそうな雲行きだ。
さらにこのルートで血糖を下げるだけで無く、なんと甘いものへの欲望を抑えることがわかって、無意識の禁欲を可能にするホルモンとしても注目されてきた。
今日紹介するアイオワ・Carver医科大学からの論文は、甘いものへの欲望を抑える回路とは別の回路を刺激して、アルコールへの欲望も抑えるメカニズムを明らかにした研究で、2月1日号のCell Metabolismに掲載された。タイトルは「FGF21 suppresses alcohol consumption through an amygdalo-striatal circuit(FGF21は扁桃体―線条体回路を介してアルコールの消費を抑制する)だ。
この論文を読むまで全く知らなかったが、遺伝子多型研究から、FGF21遺伝子座とその受容体の一つKLBの遺伝子の多型が、アルコール消費量と関連することが指摘されており、またマウスにFDF21を投与するとアルコール消費を抑えることが出来ることがわかっていたようだ。
この研究ではまず、肝臓からのFGF21をノックアウトした場合、アルコール消費量が上昇すること、一方、FGF21刺激剤を投与したときアルコール消費量が、マウスおよびサルで抑えることが出来ることを確認した上で、この効果のメカニズムを探索している。
詳細は省いて結果をまとめると次のようになる。
1)FGF21は扁桃体の基底外側部に存在するβ―Klotho(KLB:FGF受容体機能に必須の分子)発現細胞に働き、脱分極させて興奮性を高める。
2)この作用はKLB陽性神経の中でも側座核に投射する神経だけに見られ、この回路の興奮性を高める。
3)FGF21はこのグルタミン酸作動性回路の興奮を介してアルコール消費を抑える。
このように、FGF21が結局は側座核という、快感や嗜好の中枢に収束するのは面白い。蔗糖のような甘みに関しては、FGF21は直説視床下部のKLB陽性細胞に働いて甘いものへの嗜好を抑えている。元々アルコール摂取も、熟した果物を食べるところから来ており、甘みとアルコールが合わさって、動物の欲望の対象になるのだと思う。その点で、それを抑えて、しかも代謝を変化させ肝臓を守るFGF21は我々の健康を守る健康ホルモンといっても言いように思える。一方で、アルコールや甘いものへの欲望を抑えることから、禁欲ホルモンとも言えるが、FGF21を注射されたときどんな気持ちになるのかも知りたいところだ。
1:元々アルコール摂取も、熟した果物を食べるところから来ており、甘みとアルコールが合わさって、動物の欲望の対象になる。
2:それを抑え代謝を変化させ肝臓を守るFGF21は我々の健康を守る健康ホルモンの可能性あり。
Imp:
元々アルコール摂取も、熟した果物を食べるところから来ている。
人類と酒の馴れ初めも面白いです。