ケモカインは、発生や炎症で白血球やリンパ球を惹き付け、炎症を維持する働きがあるが、他にも神経系の発生に関わることを示唆する多くのエビデンスが挙げられている。ただ、私が知る限り、神経細胞同士の相互作用に関わり、神経機能を直接制御しているという論文は見たことがなかった。
今日紹介するカリフォルニア大学ロサンゼルス校からの論文はマクロファージからリンパ球まで広いスペクトラムの細胞に作用する CCL5 とその受容体が神経系に発現し、context memory と呼ばれる異なる事象の記憶のアンサンブルを整理しているという驚くべき発見で、5月25日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「CCR5 closes the temporal window for memory linking(CCR5は記憶を連結させる時間間隔を短くする)」だ。
この研究では、AイベントとBイベントを様々な間隔で経験させ、Bイベントの後で電気ショックを当てたとき、Aイベントも悪い経験として残っているかという課題を用いている。当然、AイベントとBイベントの間隔が開くと、記憶の連合は消失していく。
この研究では、まずマウスがケージの中で様々な経験をしたとき、海馬神経細胞が CCL5 やその受容体 CCR5 を発現するかを調べている。結果、ミクログリアではなく、神経細胞自体の CCL5、CCR5 の発現が高まることを確認している。また、CCR5 刺激が発生したとき、刺激細胞が標識出来る方法を用いて、経験した後少し時間をおいて神経細胞がラベルされることを確認し、神経細胞が実際に CCL5 刺激を受けて反応していることも確認している。
次は、CCL5 を脳内に注射したり、CCR5 機能をノックアウトして、このシグナルの記憶の連合への役割を調べると、CCL5/CCR5 シグナルは記憶が連合するのを抑える働きがあることを明らかにする。即ち、CCL5 シグナルが高まると、短い間隔でも2つのイベントの連合確率が低下する一方、CCR5 機能がノックアウトされると、2つのイベントの間隔が開いても記憶の連合が維持されることを明らかにした。
次に神経生理学的に、CCL5/CCR5 シグナルによって、神経興奮が抑えられること、2つのベントで重複して興奮する神経細胞が低下すること、逆に CCR5 シグナルが欠損すると重複して興奮する細胞数が上昇することを明らかにし、CCR5 シグナルが異なる事象間の連合を抑えることで、記憶が混乱しないよう働いていることを明らかにしている。
以上が主な結果だが、マウスではあるが年齢とともにこのシグナルが上昇し、連合機能が落ちていることも示している。要するに、現象に対してどうしても視野が狭くなることを意味しているのだろう。
CCR5 が記憶に働くことにも驚くが、記憶成立時の整理をしてくれているとはもっと驚く。将来、このシグナルを操作して、記憶の混乱を防いだり、連想力を上げたり出来るかもしれない。
CCR5 が記憶に働くことにも驚くが、記憶成立時の整理をしてくれているとはもっと驚く。
imp.
ケモカインが、神経細胞連結に働くとは!