大人になってから腸内細菌叢を大きく変化させることは簡単でないが、乳幼児期はもともと細菌叢が発達する時期なので、様々な介入が可能だと考えられ、研究が進められている。この介入可能性は、細菌叢の個人差として現れる。すなわち、細菌叢の個人差が大きいということは、それぞれの子供の置かれた生活環境で大きな変化が生まれることを示唆し、裏返せばそれだけ介入により変化しうることを示している。
その意味で、生活スタイルと子供の腸内細菌叢の発達を調べることはこの分野の重要課題だが、これに正攻法でチャレンジしたのが、今日紹介するスタンフォード大学からの論文で、6月10日号 Science に掲載された。タイトルは「Robust variation in infant gut microbiome assembly across a spectrum of lifestyles(様々な生活様式を超えてみられる子供の腸内細菌層の大きな多様性)」だ。
この研究ではデータベースに集まった1900人の細菌叢16Sメタアナリシスを解析して、個人間の多様性をそれぞれの国や部族ごとに調べると、工業化された米国やスウェーデンではその多様性が極めて大きい一方、アフリカの狩猟採取民では多様性が乏しいことをまず確認している。
面白いのはこの多様性が生まれる時期を調べると、工業化が進んだ国では10ヶ月前後で強く多様化する一方、Haza族のようなアフリカ狩猟採取民では、個人差がようやく30ヶ月かかって現れることを示している。
個人差は少ないが、細菌叢構成成分の多様性は Haza族の子供は高く、面白いのは、Haza族の子供から分離された細菌の実に24%が新しい種類であることを確認している。幼児期の細菌叢の病気や免疫に対する重要性を考えると、Haza族に存在する新しい細菌種の機能を調べる意義は大きい。
また、これまで工業化とともに喪失している細菌叢や、逆に獲得された細菌叢についても調べ、まず喪失している細菌は、動物の細菌叢と共通の細菌が多く含まれており、工業化諸国の子供の細菌叢には全く存在しないこと、また工業化とともに獲得された細菌叢は、大人だけに見られる細菌叢であることを示している。
いずれにせよ、長期間かけて生活スタイルごとの細菌叢が形作られていることがはっきりした。この点をさらに詳しく調べるため、今度は細菌叢の全ゲノム配列を決定し、細菌系統内の違いも詳しくわかるよう調べると、例えば母乳により育てられることと密接に関わるビフィズス菌も、生活スタイルにより維持される系統が全く異なっていることを明らかにしている。
そして、幼児発達初期に生活スタイルの差が現れるほとんどの細菌は、母親から幼児へと伝達されやすい細菌であること示し、各生活スタイルの核になる細菌叢が、母親から子供に伝達され続けていることを示している。とはいえ、Haza族では、母親が異なっても同じ環境で居住している場合、多くの細菌叢を共有しているのに、スウェーデンでは異なる家族間の共通性は低下しており、これが個人の多様性を生んでいることがわかる。
実際にはそれぞれの細菌について、詳しく解析しているのだが全て割愛した。要するに、母から子へ、核となる細菌種が伝達されること、そして幼児期の環境の多様性、離乳後の食べ物の多様性などで、細菌叢が形成されることを示している。結論はすでに指摘されてきた話で、特に新しいことはないが、ze全ゲノム解析を含めた大規模な解析で、おそらくこの細菌種の解析結果が宝の山だとおもう。特に野生と関わる細菌種を今後工業化した社会に導入できないかという意図が見える仕事だ。
1.母から子へ、核となる細菌種が伝達される。
2.幼児期の環境の多様性、離乳後の食べ物の多様性で、細菌叢が形成される。
imp.
幼児期に細菌叢を操作できる可能性あり!