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自閉症の科学55回 自閉症であることを知る最適の時期はあるか?(4月11日 Autism 掲載論文)

2022年6月16日
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今日の論文紹介は、実験的科学というより、単純なアンケート調査と思って欲しい。

私は臨床に全く携わっていないので、現在日本で自閉症あるいは自閉症スペクトラム(ASD)の診断がどのように行われ、診断後どのような医療を受けられているのかは正確に把握できていない。ただ、早く診断されると、様々な公的な支援は受けやすいだろうし、同じ問題を抱える人たちとのコミュニティーも形成しやすい。一方で、我が国でも依然として差別や無理解があるため、ASDを理由に様々なストレスを受ける心配があり、このことが診断を受けるのを遅らせる要因になると思う。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文は、この問題を「自分が自閉症であることを早く知った方がよかったか、できるだけ遅く知った方がよかったか」という質問を、大学で学ぶASDの学生にぶつけた調査結果で、4月11日のAutism にオンライン出版された。タイトルは「Does learning you are autistic at a younger age lead to better adult outcomes?:A participatory exploration of the perspectives of autistic university students(「自分が自閉症であることを若い時に知った方が、その後の人生で良い結果をもたらすと思いますか?」について自閉症の大学生への参加型調査)」だ。

これは自由参加の研究なので、参考にはなっても科学的に結論を出せる研究ではない。しかし、これまであまり問われてこなかった問題をとりあえず聞いてみたと言う点で、今後の研究にや役立つように思う。

実際には次の3つの質問を、現在大学で学ぶASD学生に質問して78人から回答を得た小規模調査だ。また、大学生と言っても、18歳から54歳までの年齢層が混じっている。

調査では

  • 自分が自閉症であることをいつ最初に知りましたか?
  • 自閉症であることをどのように知りましたか?
  • 自閉症であると聞いたときどのように感じましたか?

の三つの質問に答えてもらっている。

まず1番目の質問については、16−19歳が最も多く、あとは5歳までから15歳まで大体同じ割合で自閉症認知時期が分布している。米国でも診断が遅れることも多いことがよくわかる。

そして、認知時期とその後の生活の質を計算すると、基本的には早く知ったほうが、あとの生活の質が高まることがわかる。おそらく、様々な公的支援や、ASDコミュニティーにアクセスできることによる支援などが大きな要因だろう。

一方で、初めて知ったとき、それをポジティブに受け止められるかに関しては、成人に近づくほどポジティブに受け止められ、思春期以前ではどうしてもネガティブに受け止めてしまう傾向が見られている。

結果は以上で、総合的には早く診断して様々な支援を行うことが良いと言う結論になるのだろうが、心の問題などについては、まだまだ調べる必要があると思う。いずれにせよ、まず思いついた疑問を調べたという段階だが、間違いなく重要な課題を掘り起こしていると思う。このような問題は、国ごとに状況が異なるので、是非我が国でも調べて欲しいと思う。

  1. heping より:

    自閉症者(知的障害ともなう)の保護者です。知的障害が伴う場合、日本では大概三歳児検診のときに要観察として医療・福祉との接点ができるのがほとんどだと思います。診断のタイミングは当事者だけでなく保護者の意向も大きく作用するはずで、「障害受容」のキーワードで研究を続けていただければ、成果が期待できますね。

    1. nishikawa より:

      コメント有難うございました。知能障害を伴う場合は余計に早期診断が必要だと思います。

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