自己と非自己を区別し、自己抗原に対する免疫反応を抑制する免疫寛容は、実験免疫学が始まった頃から多くの研究者を惹きつけてきた。そして1953年、Medawarらにより免疫寛容を人工的に誘導できることが示されることで科学的研究が始まった。今週13日水曜日の夕方5時から、胸腺内免疫寛容の仕組みについて明らかにしたDian Mathis論文をジャーナルクラブで取り上げるが、そのとき彼女の論文だけでなく、1953年 Medawar 論文からの免疫寛容研究史についても触れるつもりなので、是非期待して欲しい(https://www.youtube.com/watch?v=pitYM7YqUnY&list=PLxfkSUAJXxnF2xJ2DlTVYlLMcrkn8X6Fz)。
免疫寛容の理解が難しいのは、クローンレベルの選択によるトレランスから、制御性T細胞(Treg)による反応制御とともに、いわゆるアネルギーと呼ばれる、細胞はいるのに麻痺しているような状態まで存在することだ。特に食物アレルギーを抑えるため、抗原を食品として摂取する方法では、アネルギーも加わり解析が難しい。
.今日紹介するミネソタ大学医学部からの論文は、抗原を摂取して誘導する食物抗原への寛容誘導過程を、ストレートな方法で調べた研究で、何故今まで同じような研究がなかったのかと思う重要な研究で、7月6日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Immune tolerance of food is mediated by layers of CD4 + T cell dysfunction(食物に対する免疫寛容はCD4陽性T細胞の機能不全により媒介されている)」だ。
この研究では小麦アレルギーの抗原として知られるグリアジン由来のペプチドをはじめ、様々な抗原ペプチドを直接摂取させたときに、腸内に集まる抗原特異的免疫細胞を調べている。これまでの研究で、アジュバントなしにペプチドを投与すると、寛容が起こることが知られていた。マウスは、通常のSPFを用いている。
これまで、こうして誘導される寛容の主役はTregであることが知られていたが、この研究ではMHCとペプチドが組み合わさったテトラマー抗原への結合を指標に、抗原に反応するT細胞だけに着目することで、Tregとともに、どの系列と明確に特定できないヘルパーT細胞(Th-lin(-) )が増えていることを発見している。
後は、Th-lin(-)とは何かについて詳しく調べており、アジュバントなしに直接抗原ペプチドに出会うことで、IL2 が環境にあるとTregへの文化が進み、一方 IL-2 の濃度が低いとあまり増殖せず Th-lin(-) へと分化することを明らかにする。
一方、Th-lin(-) はペプチドとともにコレラトキシンをアジュバントにして投与することで、ほとんど消失し、Tfh や Th1/17 が増加することから、反応が出来なくなったアネルギー細胞で、分化能としてはTreg にも Th1 にも分化出来るナイーブ細胞に近いと結論している。
問題は、アネルギー細胞が積極的に免疫寛容維持に関われるかだが、いったんアネルギー状態に陥ると、アジュバントを加えて新たに免疫を誘導しようとしても一定期間腸内での Th1/17細胞のリクルートが抑えられることから、アネルギー細胞もある程度の効果があるのではと考えている。
以上まとめると、胸腺と違って末梢で抗原に対する寛容が誘導される場合は、まず第一に IL-2 の存在する状況で誘導される Treg が積極トレランスを担当し、いち早く Th1 へ分化しにくいアネルギー状態のナイーブ細胞を用意することで、抗原特異的に Th1 への漏れを防ぎながら、Treg の抑制効果を高めるという複雑な経路が存在することを示している。
とはいえ、印象としては複雑すぎる。これに細菌叢が絡んでくることを考えると、食物アレルギーに対する寛容誘導も簡単ではなさそうだ。
末梢で抗原に対する寛容が誘導される場合:
1:IL-2の存在する状況で誘導されるTregがトレランスを担当する。
2:Th1へ分化しにくいアネルギー状態のナイーブ細胞を用意し抗原特異的にTh1への漏れを防ぎTregの抑制効果を高める。
Imp:
細菌叢も関与する”超腹圧系”。
生命現象の本態をみているようです。