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8月14日:抗マラリア薬クロロキンの思いがけない作用(Cancer Cell誌8月号掲載論文)

2014年8月14日
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我が国の大隅さん達により発見されたオートファジー現象は今ガン研究から熱いまなざしが注がれている。オートファジーが抑制されるとガン化を促進することが明らかになる一方で、出来てしまったガンの薬剤治療抵抗性をオートファジーが促進することがわかり、ガン治療の標的としても注目されている。特に既にマラリア治療に長く使われた歴史を持つクロロキン(CQ)がオートファジーの阻害剤として使えることがわかり、抗がん剤と併用することでガン治療効果を促進できるか可能性を確かめる臨床治験が進んでいる。今日紹介するベルギーVIBからの論文は、CQがオートファジーを抑制してガンの増殖を抑えるだけでなく、腫瘍血管の質を変化させてガンの悪性化を抑制すると言う思いがけない効果を持つことを報告している。タイトルは「Tumor vessel normalization by chloroquine independent of autophagy (クロロキンに夜腫瘍血管の正常化はオートファジーに依存しない)」で、8月号のCancer Cell誌に掲載された。研究はCQの抗がん作用をマウス皮下でのガン細胞増殖モデルで調べると、CQ投与がガン中心部の細胞死を抑制する一方で、ガンの浸潤や転移を押さえることを見いだしたことから始まる。元々この論文の責任著者Carmelietは血管研究では世界をリードして来た研究者だ。彼はこの現象がCQの腫瘍血管への効果によるとにらみ、血管の状態を詳しく調べた。その結果、正常血管構築と比べた時、階層生が失われ、内皮細胞と周囲細胞との相互作用が未熟な腫瘍血管が、CQ投与により、普通の組織血管と同じ階層性を持つ成熟した構造に回復すること発見した。中心部の細胞が死ななくなることは、血管が正常化し、酸素や栄養がガンの内部まで十分運ばれるようになったことを意味する。とすると、血管が成熟し正常化することはガンを助けてしまうように思えるが、実際にはがん周囲に酸素が行き渡ることで、低酸素によっておこるガンの悪性化を止める効果がある。更に、血管周囲細胞によりしっかり裏打ちされた血管構造が回復される結果、ガンの血管内への侵入を食い止めて転移を押さえる効果がある。実際血管が正常化することで、ガンの血管への侵入が止まるという結果も示されている。これらの結果は、CQが持つ抗がん作用の一部が腫瘍内血管の正常化を介していることを明らかにした。加えて、血管構築が正常化し、内皮細胞が成熟すると、薬剤がガンに届き易くなり、抗がん剤の効果を促進するというデータも示されている。ではCQの腫瘍血管に対する効果はオートファジーを介しているのか?結果はNoで、遺伝子操作を用いて血管内皮のオートファジーを止めると、CQ処理とは全く違い、腫瘍血管構築は回復するどころか、秩序がより失われる。従って、CQの血管内皮への効果はオートファジーを介してはいない。少し専門的になるが、Carmelietたちは、この効果が細胞内に存在するエンドゾームと呼ばれる小胞体の動きが低下し、Notch1と呼ばれるタンパク質が小胞体に蓄積してシグナルを送り続けることで血管が正常化することによることを示した。この現象の分子メカニズムはこのように複雑だが、結論は明瞭で、CQは、1)オートファジーを抑制しガン自体の増殖を抑え、2)血管構築を正常化させて浸潤転移を抑制し、3)抗がん剤のガンへの到達を促進する、3拍子揃った薬剤であることを示している。これは全て、マウスを使ったモデル系での話だが、おそらく現在治験が進む患者さんから、この点についても今後多くの情報がもたらされると期待している。CQについては私も大きな期待を抱いている。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    Carmelietたちは、CQの効果が細胞内に存在するエンドゾームと呼ばれる小胞体の動きが低下し、Notch1タンパク質が小胞体に蓄積してシグナルを送り続けることで血管が正常化することによることを示した。

    2019年3月6日の論文ウオッチでは、CQ+抗がん剤の膵臓ガンに対する効果が取り上げられました。

    4年半前から、専門家の間では注目されていたんですね。

    オートファジー:基礎科学領域だけの話題ではなくなっています。実際の医療へ発展中。

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