ミカンキジラミ:毒作る細菌と共生し防衛・・・・新薬開発にも。 毎日新聞08月12日記事。
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http://mainichi.jp/select/news/20130813k0000m040094000c.html
一つの統合された構造を作る共生の中でも、最も良く知られているのは、菌類と藻類からなる地衣類だろう。現存の真核生物もミトコンドリアを取り込んだ共生システムと呼ぶ事が出来る。このように共生は、個体性の問題や、遺伝子の水平伝播などとであう可能性が高い現象で、進化研究に欠かせない事が広く認識されている。今回の豊橋技術科学大学、中鉢さん達の仕事は、ミカンキジラミの中に存在する、2種類の細菌と宿主(ミカンキジラミ)細胞の三種類が共生するバクテリオームと呼ばれる面白い構造に着目して研究している。この構造は、宿主の細胞が特殊な構造を作って、あたかも2種類の細菌を飼育している様な構造だ。今回の仕事では、この構造の中で飼育されている(?)細菌の遺伝子配列を決めると同時に、それぞれの細菌がこの構造のどこで維持されているのかを決めている。その上で、またこの様な共生が必要とされる機能的側面と、共生する事によるゲノムサイズの縮小などの進化的な側面、このバクテリアのトキシンの自然選択における役割などについて研究している。私はこの分野の素人だが、論文としても面白く、広い視野で研究が行われていると言う印象を持った。
ただはっきり言おう。記事はひどい。せっかく、共生生物のような面白い題材を記事にしようとしたのに、この論文の真価をほとんど伝えていない。もし伝えられないだけでなく、理解していないとしたらもっと問題だ。結局記事を、抗がん剤が開発できるかもしれないなどとまとめてしまうと、何のためにこの仕事を紹介する必要があったのかよくわからなくなる。創薬の現在を紹介したければ、もっと他にも仕事があるはずだ。勿論この仕事のハイライトは、新しい細菌のゲノムを決めると同時に、それの作る毒物を明らかにした事だ。しかし、トキシンはこの共生体の機能と進化を知るための一つの要素にすぎず、主要な部分ではない。にもかかわらず、「新薬開発にも?」という、みだしはひどい。また、この記事でもこの仕事を掲載した雑誌を、米専門誌に発表されたと記載している。これは毎日新聞を日本の某紙と呼ぶ様な物だ。この論文はカレントバイオロジーに掲載されている。どこに発表されたのかなどは勿論問題ではないが、記事にする限り、出所は明確にすることは当たり前の事だ。この様な仕事を報道のために取り上げたのは高く評価する。であるなら、是非本当の真価を伝える努力をしてほしい。
ここで、本当に記者だけの問題だろうかと、はっと気がついた。もし研究者の方が記者に対してこの様な宣伝の仕方をしていたら?という疑問だ。十分あり得る事だが、だとするとあまりに悲しい。そして、もしそうだとすると、これは私たちの国の現代の科学政策を映す悲しい一面かもしれない。