自分自身の育ってきた時代と比べ、清潔が当たり前になった現在の日本にどのぐらい分布しているのかは把握していないが、体長が0.2mmという小さなニキビダニが毛根に常在する人は珍しくなく、通常は何もしないのだが、免疫が低下したりすると、ひどいニキビになることが知られている。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はニキビダニの感染と自然免疫系の相互作用を調べた研究で、10月11日 Immunity に掲載される。タイトルは「Innate type 2 immunity controls hair follicle commensalism by Demodex mites(ニキビダニの毛根内での常在性を2型自然免疫が調節している)」だ。
ニキビダニの感染による炎症誘導と、自然免疫系の皮膚自体への効果が、あまり整理せずにそのまま示されるので、解りにくい論文だが、イエダニのように毛根に過適応してしまった生物とホストの関係の複雑性がよくわかる。
ヒトだけでなく、ニキビダニはマウスにも存在し、SPF 飼育環境ではほとんど存在しないが、たまにおそらくヒトから感染することがあり、特に免疫系をノックアウトしたマウスを飼育している場合、毛根で増殖し、炎症を起こすことが知られていた。
この研究では、IL4 受容体、IL13/IL4 など2型免疫に関わるサイトカインシグナルが欠損したマウス毛根でニキビダニが増殖し、それとともにT細胞の浸潤、及び自然免疫に関わる ILC2 が増加することを発見する。すなわち、2型免疫サイトカインが存在することで、ニキビダニの増殖が抑えられ、バランスの取れた常在性が実現している。
次にニキビダニの増殖と、浸潤細胞との関係を調べる目的で、リンパ球分化が起こらない Rag2 ノックアウトマウス及び、ICL2も欠損する Rag2 及び IL2γR がノックアウトされたマウスを比べると、Rag2 ノックアウトだけでは感染増強は強くないが、両方ノックアウトされると強い感染が起こることがわかった。すなわち、リンパ球の浸潤より、ILC2 の浸潤が感染を抑えていることが明らかになった。
以上のことから、ILC2 が産生するサイトカイン、特に IL13が 低下すると、ニキビダニの増殖を抑制できないことがわかる。そこで、2型サイトカインがニキビダニの増殖を抑える仕組みを探ったところ、キラーのように直接ニキビダニを殺すのではなく、2型サイトカインが毛根幹細胞の増殖を抑えることで、皮膚のバリア機能、及び修復機能が低下し、その結果毛根上部のニキビダニが毛根全体に拡がって生息し、炎症を起こすと結論している。
実際、ニキビダニとは無関係に、2型サイトカインは皮膚のバリア機能や毛根の再生を維持する過程に関わることも示している。
以上、ニキビダニと人間の関係は、片利共生と呼ばれるタイプで、ニキビダニにとって毛根以外での生存はあり得ないが、それ自身は人間に何の役にも立たない共生関係になる。はっきり言えば、ニキビダニは姿を現さない居候に徹することで人間と共生関係を続けられてきたのだが、そのためにあえて自分自身が増えすぎないよう、ホストの免疫系にお願いして、毛根にあるドアを閉めてもらって、自分を狭い空間に閉じこめている。この複雑なメカニズムを知ると、グロテスクなやつだが、なんとけなげなダニなんだろうと、愛着がわいてくる。
はっきり言えば、ニキビダニは姿を現さない居候に徹することで人間と共生関係を続けられてきたのだ。
imp.
害にも利にもならず存在感を消すことによる生き残り戦略。
考えてみると、もっとも省エネな生き残り共存戦略?
素晴らしい!