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8月31日:住宅環境と皮膚細菌叢(8月29日号Science誌掲載論文)

2014年8月31日
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昨日早とちりして腸内細菌叢第2弾とアナウンスしたが、今日紹介するのは皮膚にある細菌叢の話だ。従って、ヒト細菌叢第2弾。研究の目的は住宅の細菌叢と、それに触れるヒトの細菌叢の関係を明らかにすることだ。シカゴ大学からの論文で8月29日号のScience誌に掲載された。おそらくなんとか論文掲載にこぎ着けようと頑張っている若い研究者は「えー?」と驚きそうな論文だが、タイトルは「Longitudinal analysis of microbial interaction between humans and the indoor environment(ヒトと室内環境の細菌叢相互作用に関する長期分析)」だ。研究では、10の家で4−6週間、室内の様々な場所と、住人の手、顔、足の皮膚の細菌叢に存在する細菌の種類を次世代シークエンサーで調べただけの仕事だ。これはHome microbiome projectというアメリカのプロジェクトの一環らしい。結論も簡単だ。要するに同じ家だと場所が変わっても細菌叢は似ているし、ヒトの細菌叢ともよく似ている。実際にはかなり詳細に調べてある。例えば、床の細菌叢と足の裏の細菌叢は似ている。しかし鼻の細菌叢は手や足の裏と比べるとそれほど似ていない。また、それぞれの家の細菌叢は大きく異なり、その結果どの家に住んでいるのか、住人の細菌叢を調べれば推察できる。要するに、家の細菌叢は住んでいる人の細菌叢の平均的総和を表し、例えばお父さんが出張すると、すぐにお父さんからの影響が無くなり、残りの家族の総和に落ち着いて行くと言う結果だ。また、新しい家に引っ越すと、その家の細菌叢は家族の細菌叢へと変化して行く。勿論子供部屋の細菌叢に両親の影響は少ない。これが正しいとすると、若い女性がつり革を持ちたがらないのも理解できる。極めて納得のいく結果だし、こんな調査をまじめに行い、トップジャーナルに掲載できる社会全体は極めて興味がある。しかし、ではこの家庭の細菌叢研究自体がトレンドかと聞かれればそうではない。この様な研究の背景には、記録できることは全て記録すると言う新しい思想がある。ゲノムを始めとするあらゆるライフログ。そして私たちを取り巻く環境が全て記録出来るようになりつつある。これまで死ねば個人の痕跡が何も残らなかった20世紀までとは異なる新しい人間学が誕生する。地球上で起こることなら針一本落ちた現象も全て記録したいとグーグルの創業者は言ったらしい。これと同じ思想をこの研究に感じたとき、この論文の真価が初めて見える気がする。次世代シークエンサーが21世紀の新しい情報時代の象徴になっていることは確かだ。とは言え、せっかくなら腸内細菌叢も調べて欲しかった。後は手洗い回数も是非ライフログとして加えて欲しい。

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