コロナパンデミック以来、一般紙に掲載される感染症の数が確実に増えている。しかし、これは必要や政策だけの結果ではなく、感染症の研究が生物学的にもいかに面白いかがわかってきたからだろう。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、抗生物質が開発されるまでは感染症の王者だった結核菌が抗生物質に耐性を獲得するときの、全く新しいメカニズムを明らかにし、治療にあたっての新たな注意を喚起した研究で、12月9日号の Science に掲載された。タイトルは「Tuberculosis treatment failure associated with evolution of antibiotic resilience(結核治療の失敗は抗生物質に対する快復力の進化に関わる)」だ。
治療する側から考えると、病原菌の進化はそのまま耐性菌の進化と重ねてしまうが、コロナパンデミックで分離されたウイルスからわかるように、病原体の方では少しでも生産性が上がるようにと、あらゆる進化が進んでいる。この研究ではまず、結核菌の進化に関わるゲノム変化を、世界中の5万人の結核患者さんから分離した結核菌の遺伝子配列から特定しようと試みた。
現在では結核と診断されれば治療が行われているので、当然結核菌の進化としてリストされてくる多くの遺伝子変化は、様々な抗生物質の標的分子に直接関わっている。しかし、それ以外にほぼ半数の変化は、抗生物質耐性には直接関わらない。
この研究では強い選択圧が働いているが、直接薬剤耐性に関わらない遺伝子リストのトップランクの中から、彼らが resR と名付けた転写因子を選んで、その機能を調べている。
予想通り、様々な抗生剤に対する耐性はほとんど変化しない。しかし、抗生剤処理後の回復力を調べると、resR遺伝子の変異があると、抗生剤を生き延びた菌の快復力、また増殖力が著明に高まっていることをがわかった。
この形質変化の原因を探ると、細胞分裂や細胞のサイズを決定する転写因子 WhiB2遺伝子の転写を高め、抗生剤が洗い流されて増殖がスタートするときの増殖速度が高まることがわかった。また、WhiB2も結核菌の進化の過程で変異が蓄積していることも明らかになった。
この結果は、ガンの幹細胞のように静止期の細菌が存在し、これが抗生剤の作用を生き残れると、今度は急速に増殖して個体数を高めていると考えられる。とすると、治療が中途半端に終わったばあい、このような変異体が増えてくる可能性が想定される。
そこで、開発途上国でよく行われる、治療期間をもっと短くする可能性を追求する治験研究を選び、治療後再発したケースについて結核菌の遺伝子を調べると、予想通りresR や WhiB2 の変異が蓄積することを確認している。
以上が結果で、結核の治療に関してはできるだけ治療期間を短くする方向で研究が進んできたが、抗生剤を問わず、薬剤をやめてからのリバウンド活性を上げる変異が現れることを考えると、この変異を組み入れた治験を行う必要がある。結核は決して終わった病気ではない。このような変化が蓄積してくると、とんでもない病原菌へと変化することすらある。ガンと同じで、十分治療を行い、菌の流通量を極力減らすことが重要だ。
結核の治療に関してはできるだけ治療期間を短くする方向で研究が進んできたが、抗生剤を問わず、薬剤をやめてからのリバウンド活性を上げる変異が現れることを考えると、この変異を組み入れた治験を行う必要がある。
imp.
薬剤をやめてからのリバウンド増殖!
生き残る株があるんです!
どんなに頑張っても!