レンチウイルスをベースにしたベクターが登場してから、遺伝子導入の効率が高まり、実験室での遺伝子導入だけでなく、臨床現場でも利用されるようになっている。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、このレトロウイルスのenv蛋白質を改変して、抗体やT細胞受容体(TcR)と結合できる抗原に変化させることで、抗原特異的リンパ球に感染させ、様々な目的に利用出来るようにした開発研究で12月22日 Cell に掲載された。タイトルは「Engineered cell entry links receptor biology with single-cell genomics(細胞への侵入を操作することで受容体生物学と単一細胞ゲノミックスをつなげることが出来る)」だ。
レンチウイルスは相手の細胞に吸着した後、細胞膜と融合してウイルス粒子ないの分子を注入する。この過程を完全に操作して、抗原やMHC+ペプチドを吸着のための分子として使い、VSVウイルスの細胞膜融合システムを利用したウイルスを設計することで、抗原特異的B細胞や、T細胞のみ標識したり、遺伝子を導入したりすることが出来ると期待される。
研究ではまず、CD19抗原をファージ粒子に発現させウイルス感染分子として利用するための様々な条件設定を行い、最終的にICAM分子の膜結合ドメインとCD19が結合したリガンドが、膜融合分子とともに膜状に発現し、さらにGFPを融合させたウイルスGAG蛋白質、そして導入したいRNAをパッケージしたウイルス粒子を作るのに成功している。また、同抗原の代わりに、抗原ペプチド/β2ミクログロブリン/MHC複合体を使ってTcRを標的にすることにも成功している。この結果、抗原、標的細胞標識、RNA導入の3つの機能を持つウイルスが作成された。
まず、これによりウイルスと結合して感染したB細胞やT細胞は、感染直後からGAG-GFPにより抗原特異的細胞を特定でき、抗原に反応する抗体やTcRを特定できる。
同じことは、蛍光標識した抗原やMHC/ペプチド・テトラマーでも可能だが、この方法だと細胞自体をGAG-GFPやRNAでラベルされるので、抗原刺激後の変化を追いかけることも出来る。
さらに、ベクターゲノムに様々な遺伝子を組み込み、抗原特異的なT細胞やB細胞特異的に細胞死を誘導出来ることを示し、抗原特異的細胞操作の可能性を示している。
これらの特徴を利用して、健常人の末梢血CD8T細胞からサイトメガロウイルス特異的細胞を特定し、サイトメガロウイルスに対するTcRの多様性や、細胞の分化段階などを詳しく解析し、サイトメガロウイルスのような慢性感染では、TcRの多様性だけでなく、様々なステージのT細胞が共存することを示している。
結果は以上で、原理的には抗原特異的、あるいは様々な分子特異的細胞を蛍光GAG分子と遺伝子導入で標識するという実験系だが、様々な可能性が浮かんでくる方法で、免疫系に限らず、神経系など今後利用が進むような気がする。
抗原やMHC+ペプチドを吸着のための分子として使い、VSVウイルスの細胞膜融合システムを利用したウイルスを設計することで、抗原特異的B細胞や、T細胞のみ標識したり、遺伝子を導入したりすることが出来ると期待される。
imp.
細胞、移植臓器だけでなく、
ウイルスもヒトの意のままに改変する時代到来!
創世記の『夕べがあり、朝があった』で語られる日々、
もともと存在しなかったのでは??