先日、ヨーロッパ中世、黒死病として猛威を振るったペスト菌により、流行前と後で、免疫系の遺伝子で見たとき、明確に遺伝子型の選択が起こっていた事を示すカナダマクマスター大学からの論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/2080)。実際このようなイベントを繰り返しながら、現在のゲノムが形成されているのだが、感染症ではこのようなスピードで自然選択が起こることを見事に証明している。
今日紹介するフランス人類進化研究所からの論文は、過去1万年を遡ってヨーロッパ人のゲノムの現在の形成に関わってきた自然選択要因を明らかにしようと、3000人近い古代ゲノムデータのゲノム解析から、選択されてきた多型をリストし、その意味を調べた研究で、1月13日 Cell Genomics にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic adaptation to pathogens and increased risk of inflammatory disorders in post-Neolithic Europe(新石器時代以降の病原体への遺伝的適応は炎症性疾患へのリスクを高める)」
この論文を読んで驚くのは、全ゲノム多型解析が可能な古代人のゲノム解析が3000もすでに存在することで、当然大きな時代区分でその時の各多型の時代ごとの頻度を算出できる。これに着目して、選択された痕跡がある多型をリストし、各時代ごとの頻度を調べたのがこの研究だ。
多型解析は別として、あとは全てこの目的に合わせたインフォーマティックス解析の結果なので、私には正確に評価できないが、最も大きな発見は、実に102もの部位が青銅器時代以降強く選択を受けていることで、そのうち89多型が免疫に関わる遺伝子座に存在すること、そしてその多くが遺伝子発現調節に関わる領域の多型である事を特定している。
これらの領域が実際に感染免疫に関わっている可能性を調べるため、エピジェネティックデータベースと対応させると、多くがクロマチンの開いた領域に存在することを突き止めている。すなわち免疫系機能を高める方向に進化した可能性を示唆している。以上のことから、進化した遺伝子多型の多くは感染症による選択圧の中で進化してきたことが示唆される。
それぞれの多型の頻度を時代ごとにプロットすると、人口が上昇した青銅器時代に入って急速に選択が進んでいることがわかる。感染が人工の増加とともに広がる事を考えると、短い期間での進化に感染カタストロフが重要な要因になっていることがよく分かる。
これらの遺伝子多形の多くは、Covid-19 の感染や病態に関わる多型を含む様々な感染症に相関した多型とオーバーラップし、これも感染症=選択圧を裏付ける。一方で、こうしてリストされた多形の中には、炎症性大腸炎やリュウマチ性関節炎、SLE等の自己免疫性炎症疾患と相関する多型も含まれていることから、感染症に対する抵抗性を獲得する代わりに、自己免疫性炎症リスクが高まることもわかる。
一方で、抵抗力が上がる方向だけに進化しているわけではない。IL23受容体や、LPS結合タンパク質のように、実験的に免疫を落とす方向に選択が進む多型もみられる。重要なのは、このような多型の多くは文明が進んだ1千年前後に急速に始まっている点で、感染リスクの高まりを犠牲にしても対応すべき重要な選択圧が存在していた事をうかがわせる。
以上が結果で、すでに古代人ゲノムデータを人間の自然選択要因を調べられるところまで解析が進んでいることに感心した。
1;短い期間での進化に感染カタストロフが重要な要因になっている。
2;リストされた多形の中には自己免疫性炎症疾患と相関する多型も含まれ、感染症に対する抵抗性を獲得する代わりに、自己免疫性炎症リスクが高まる。
3;実験的に免疫を落とす方向に選択が進む多型もari,このような多型の多くは文明が進んだ1千年前後に急速に始まっている.
Imp;
疫病。
短期的には人類社会にとって災禍。
長期的には進化を促す原動力のようです。