ミラーニューロンは、イタリアの神経科学者リッツオラッティにより発見された現象で、手の運動をコントロールする脳神経の興奮を調べている時、実験者が行った手の動きに同じニューロンが反応したことから、他人の行動を自分の行動と同じと見做す能力と解釈されている。ただ、このような他人の行動を自分の行動と同じように脳内に表象する能力は猿のような高等哺乳動物にしかないと(少なくとも私は)考えてきた。
ところが今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、マウスでも同じようなミラーニューロンが存在することを明らかにした研究で2月15日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Hypothalamic neurons that mirror aggression(攻撃を写す視床下部神経)」だ。
縄張りを侵されると攻撃する行動は多くの動物に見られるが、マウスでは視床下部にこの攻撃行動をコントロールする神経細胞集団が特定されている。すなわち、これらの神経細胞は、感覚神経と共に、社会性、経験、自己認識に関わるさまざまな領域からインプットを受けて、最終的な攻撃行動を調節する。
著者らはこれほど複雑な行動は、必ず全体のプランを表象して指令されているはずで、それなら他のマウスの攻撃行動を見た時も同じ細胞がミラーニューロンのように反応するはずだと考えた。
そこで、視床下部の攻撃中枢の神経細胞の活動を、実際の攻撃行動で記録した後、今度は他の個体の攻撃を見せて、同じ神経細胞が興奮するかどうかを、single cell レベルで比べている。結果は期待通りで、攻撃行動で興奮した神経の6〜8割が他の個体の攻撃行動を見たときにも同じように興奮していることを発見する。まさに、状況を選べばマウスでもミラーニューロンを特定できるという訳だ。
この結論をさらに確認するため、今度は攻撃行動を起こしたときに興奮した神経では Fos が発現することを利用して、興奮した神経を蛍光分子で標識し、攻撃行動で標識された神経細胞が、他の個体の攻撃行動を見たときに興奮することを確認している。
最後に、ミラーニューロンが実際に攻撃行動に関わっているか調べるため、他の個体の攻撃行動を見たときに興奮した細胞特異的に、神経機能を抑制する操作を行い、実際の攻撃行動の様子を調べると、攻撃行動が強く抑制される。すなわち、直接行動に係るニューロンが、行動を目撃したときに働いていることを機能的に証明した。
一方、攻撃行動を見たときに興奮した細胞を特異的に活性化させると、今度は攻撃性が高まり、通常なら刺激に必要なフェロモン感覚も必要なく攻撃することを発見している。さらに、同じようにミラーニューロンを興奮させたマウスは鏡で自分の姿を見ても、攻撃体制に入ることが明らかになった。
結果は以上で、ミラーニューロン現象はマウスにも存在することが明らかになったことは、一つの行動プログラムが脳内で表象され、実際の行動だけでなく、同じ行動を目撃しても、その表象が脳内で再現されるという複雑な過程が決して人間や猿のような高等動物の専売特許でないことを明らかにした。これにより、ミラーニューロンの役割や、進化についての研究に新しい道筋が生まれたのではと期待している。
1;攻撃行動で興奮した神経の6〜8割が他の個体の攻撃行動を見たときにも同じように興奮していることを発見する。
2;状況を選べばマウスでもミラーニューロンを特定できる。
Imp:
マウスのレベルでも、他人の行動を自分の脳内に表象可能とは!