この頃は細菌叢の研究も、現象だけではトップジャーナルには採択されず、はっきりした因果性を求められる様になっている。また、特定の細菌が現象の原因になるとしても、最終的には分子基盤も求められる。そのため、細菌叢の全ゲノム解析と、代謝物を網羅的に調べるメタボローム解析が重要になりつつある様だ。
今日紹介するハンブルグ大学からの論文では、膵臓ガンの化学療法効果を高める細菌叢の研究からトリプトファン代謝分子 3-IAA による活性酸素がこの効果の原因であることを特定した研究で、2月22日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Microbiota-derived 3-IAA influences chemotherapy efficacy in pancreatic cancer(細菌叢由来 3-IAA は膵臓ガンの化学療法効果に影響する)」だ。
この研究では膵臓ガンの患者さんの半数以上が、スタンダードの化学療法に反応せず、ガンゲノムからこの違いを説明できないことに注目し、この差が細菌叢の違いによる可能性をまず追求している。
化学療法に反応した患者さんと反応しなかった患者さんの便を移植した無菌マウスに腫瘍を移植、化学療法を行うと、明確に反応した患者さんの便を移植したマウスでは化学療法効果が高くなる。
そこで、反応したリスポンダー(R)の血清、及びR便移植を受けたマウスの血清のメタボローム解析を行い、細菌叢によりトリプトファンが indole-3-acetic acid (3-IAA) へと転換されるほど、化学療法の効果が高まることを発見する。そして、3-IAAを作るバクテリア種を特定するとともに、3-IAAを直接投与するだけで、化学療法の効果を高められることを確認する。
あとは3-IAAの効果のメカニズムだが、3-IAA 投与で好中球が急速に低下することに着目し、最終的に 3-IAA が白血球のミエロペルオキシダーゼの作用を受けて毒性の強いmethylene-2-oxindole(MOI)に変化することで、白血球自体を殺すとともに、ガンに作用して抗ガン剤の効果を高めることを明らかにする。
また、MOI のガンに対する毒性のメカニズムについても調べ、抗ガン剤が MOI と協調してグルタチオンペルオキシダーゼを抑え、この結果活性酸素が上昇し、これがオートファジーなどストレス反応を抑えて、ガンを死にやすくしていることを明らかにしている。
最後に、膵臓ガンの患者さんの治療反応性と3-IAA濃度の相関を調べ、3-IAA の高い患者さんほど生存期間が長いことを確認し、この発見の臨床応用が可能であることを示している。
以上、面白い研究だが、読んでいて採択までの要求が確実に高まっていることを感じる。
0:膵臓ガン患者さんの半数以上が、標準化学療法に反応せず、ガンゲノムからこの違いを説明できない。
1:膵臓ガン患者さんの治療反応性と3-IAA濃度の相関を調べ、3-IAAの高い患者さんほど生存期間が長い。
2:この発見の臨床応用が可能であることを示している。
Imp:
化学療法感受性の違いの一端が細菌叢に!
この論文のように‘原因分子機構‘まで特定して語られると信憑性が増します!