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3月7日 Tingible body macrophageとは何か?(3月2日 Cell オンライン掲載論文)

2023年3月7日
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形態以外に分類方法がなかった我々の学生時代、組織や細胞の特徴を表す言葉を覚えることが、病理学の勉強だった。このおかげで、言葉というシンボルだけで、複雑な形態を思い浮かべることが出来る様になった。病気で多くの人にも知られている例は、パーキンソン病のレビー小体だろう。

今でも病理学で教えていると思うが、少しマニアックなのが Tingible body macrophage(TBM)だ。リンパ濾胞の中に存在する大きなマクロファージで、特に細胞内に死細胞断片が取り込まれたことによる特徴的形態をしている。おそらく断片化した核酸が染まるので tingible と呼ぶのだと思うが、B細胞濾胞で免疫反応が始まり胚中心が形成される過程で現れるため、B細胞の増殖と細胞死が起こる胚中心で、細胞を急速に処理し、異常な反応を抑えることがその役目だと考えられている。実際、TBM に細胞が食われなくすると、胚中心が大きくなり、自己抗体を伴う自己免疫が発症する。

今日紹介するオーストラリア・ガーヴァン医学研究所からの論文は、様々な組織学的技術を駆使して TBM の由来と成り立ちを明らかにした研究で、3月2日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Apoptotic cell fragments locally activate tingible body macrophages in the germinal center(アポトーシスによる断片が局所的に胚中心の tingible body macrophage を活性化する)」だ。

まずマクロファージ系列を標識したマウスに免疫して胚中心を作らせ、TBM を他の場所のマクロファージと比較し、同じマクロファージでも、リンパ節辺縁やT細胞領域のマクロファージとは異なる性質を獲得していることを明らかにしている。

次に、生きたままリンパ節組織を観察する方法を用いて、TBM が濾胞内でほとんど動かず、しかし長い突起を伸ばして死細胞の断片を貪食していることを明らかにする。生体を観察する方法で、突起に補足された細胞断片が取り込まれる様子が見れるというのは驚きだ。

次に、発現している蛍光分子をブリーチしてターンオーバーを調べる方法で、通常はあまりターンオーバーのない、いわゆる組織常在マクロファージで、免疫反応前から B細胞濾胞に散在しており、免疫により胚中心が形成されると、細胞断片を取り込みはっきりと目立つ様になることを示している。また CSF1受容体をブロックしてもほとんど数に変化がないことからも常在細胞であることがわかる。

最後に、典型的な TBM 形態をとる様になるスイッチが、死細胞を取り込むことに依るのではと着想し、濾胞内の B細胞を人為的に殺す方法を用いて、免疫による胚中心形成が起こらなくても、B細胞のアポトーシスが起こり始め、その断片を TMB が取り込み始めると、典型的形態を誘導できることを明らかにしている。

以上が結果で、病理で TBM を知ってから50年ぶりに、TBM に目がとまり、一つの形態にも様々なメカニズムが背景にあることがよくわかった。

  1. okazaki yoshihisa より:

    TBM=B細胞の増殖と細胞死が起こる胚中心で、細胞を急速に処理し、異常な反応を抑えることがその役目だと考えられている。
    Imp;
    TBMが自己免疫疾患とも関連しているとは!

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