カロリー制限だけでなく、たとえば肥満外科療法で体重を落としても、リバウンドしてしまうことが多い。すなわち、ダイエットの長期的成功には欲望を抑える理性が必要で、体重が落ちたからと安心してしまえば元の木阿弥になる。
このメカニズムは、体のカロリーバランスを検知してその情報を食欲中枢で知られる視床下部弓状核にあるアグーチペプチドを分泌する AgRP神経細胞を刺激する回路が存在するからだが、今日紹介するドイツ ケルンのマックスプランク代謝研究所とハーバード大学からの論文は、体重低下を感知して活性が高まる視床下部の房室核と AgRP神経サーキットの特性を詳しく調べることで、体重を減らしても結局元に戻るメカニズムを調べた研究で、3月24日 Cell Metabolism にオンライン掲載された。タイトルは「A synaptic amplifier of hunger for regaining body weight in the hypothalamus(視床下部で体重が元に戻るまで食欲を高めるシナプス増強システム)」だ。
この研究では神経活動の記録および光遺伝学による神経活動操作をベースに、視床下部の房室核にある Thyrotropin(TRH)分泌細胞と弓状核の AgPR神経をつなぐシナプスの興奮が、カロリー制限で高まることが、カロリー制限で食欲が高まり体重を元に戻す過程で最も重要な神経回路であることを確認している。
そして、この2領域を結ぶシナプスの特性について詳しく検討し、房室核 TRH細胞が活性化されると、AgRP神経とのグルタミン酸受容体依存的シナプス結合の活性が高まり、結果 AgRPの興奮が続くことを明らかにする。すなわちカロリーバランスが房室核にどう伝わるのかは解明が必要だが、このシグナルは一度房室核TRH細胞の活性化に収束して、ここから AgRPを直接結ぶ回路のシナプス数を増強させ、食欲を持続的に上昇させることがわかった。
ここまではある程度わかっていたことだが、この研究では光遺伝学を用いて TRH細胞を短期に刺激する実験を行い、これにより食欲は刺激が終わっても、24時間活動が高まったまま維持されること、さらには体重は1回の刺激で2週間ぐらい上昇し続けること、またこの上昇はグルタミン酸受容体を阻害することで完全に元に戻ることを明らかにしている。
すなわち、このシナプスの変化は一種のエピジェネティックな変化で、一定の持続性がある。以上の結果から、ダイエットすると体重バランスが元に戻るまでは、常にこの回路の刺激が続き食欲がたかまる。また、元に戻ってもシナプスが正常化するには少し時間がかかって、リバウンドしてしまうという結果だ。
しかし、これはダイエットという極めて現代的な視点で見た時の話で、実際には食べられない限り、餌を求めて行動するために食欲を高めるのは当然のことだろう。おそらく重要なのは、この回路を使って体重が減っても食欲がわかない人を助けることではないかと思う。
1.このシナプスの変化は一種のエピジェネティックな変化だ。
2.ダイエットすると体重バランスが元に戻るまで常にこの回路の刺激が続き食欲がたかまる。
3.元に戻ってもシナプスが正常化するには少し時間がかかり、リバウンドしてしまう。
imp.
体重、食欲の関係の背後にエピジェネティック変化あり!