GPCRは、細胞内のG蛋白質を活性化することでシグナルを伝える受容体で、私たちは400種類の臭い受容体として働くGPCRに加えて、様々な機能を担う300種類のGPCRを有している。この300種類はG蛋白質を活性化する点では共通だが、刺激を受ける細胞外部分とその機能は極めて多様で、直接リガンドと結合してシグナルを伝える分子の他に、GPCR自体がリガンドも持っており、例えばトロンビン受容体の様に、トロンビンによりリガンドが切り離されることで活性化され、シグナルが入るGPCRまで存在する。
問題は多くのGPCRが身体の中で合成された分子に反応するだけでなく、例えば麻薬に反応するGPCRのように、様々な外来分子にも反応することで、それぞれの受容体の刺激物質を特定することは簡単でない。このためには、300種類全ての受容体を別々に導入したレポーター細胞が用いられ、様々なGPCR活性化分子をスクリーニングする体制が出来ているが、コストと時間がかかる。
今日紹介する米国エール大学と中国・復旦大学からの論文は、人間が持つ300種類のGPCRに対する活性化物質を一本のチューブで検出する方法の開発で、7月6日 Cell に掲載された。タイトルは「Highly multiplexed bioactivity screening reveals human and microbiota metabolome-GPCRome interactions(高度に多重的GPCRスクリーニング系によりヒトや細菌叢の代謝物とGPCRの相互作用が明らかになる)」だ。
これまでもGPCRにより転写される標識分子にバーコードをつけることで、どのGPCRが活性化されたのかを調べる方法は開発されていた。ただ、この研究では人間が持つ314種類のGPCRと、バーコードされたレポーターを別々の細胞に導入し、転写されたRNAから活性化されたGPCRを特定できる系を作り上げている。これまではGPCR活性化による蛍光分子発現の様に、見ることで検出してきたGPCR活性化も、バーコードを用いた読む検出計に変わったことがわかる。
300種類以上の細胞を用意するのは大変だが、一度出来てしまうと一本のチューブに全ての細胞を入れて、刺激分子の溶液を混ぜ、その後でRNAを読むだけでどのGPCRが活性化したかがわかる。事実この系に、例えばケモカインなど既にわかっている分子を加えると、特異的な反応が検出できることがわかる。勿論300種類全ての細胞を一本のチューブに入れると、どうしても感度は低下するが、それでもこれまで知られていなかったことが、このスクリーニングから明らかにされた。
まず我々の身体の中で特定された約1000種類の代謝物の中にGPCRを刺激する分子があるか調べて、ドーパミン受容体やヒスタミン受容体が様々な代謝物で活性化されること、あるいは様々なペプチドと反応するGPCRを特定している。
中でも面白いのは、我々の細菌叢が分泌する分子のなかに、GPCRを活性化する分子があるか調べたスクリーニングで、400種類の細菌培養上清をスクリーニングし、これまで指摘されてきた腸内細菌叢から分泌されるヒスタミン受容体刺激に加え、あえて皮膚の細菌によるFPR2刺激が白血球浸潤を促す可能性など、18種類のGPCRとの相互作用が示された。
この研究ではこの中から、歯周病菌P.gingivalisにより白血球の炎症を誘導するCD97活性化に着目し、メカニズムを詳しく解析している。結果、P. gingivalisが分泌する分解酵素ジンジパインKによりCD97の細胞外ドメインが切断されることでGPCRシグナルが入ることを明らかにしている。P.gingivalisが強い炎症を誘導する歯周病菌であることを考えると、この発見は重要だと思う。
実際には、テクニカルにもまだままだ問題はあるが、全GPCRについて一度に調べられることは重要で、ここでも見る(蛍光)から読む(バーコード)の変化が進んでいるのがわかる。