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7月29日 TRIM11はアルツハイマー病の画期的治療を可能にするか(7月28日号 Science 掲載論文)

2023年7月29日
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レカネマブが上梓され、アルツハイマー病(AD)治療も一歩前進した感があるが、本当の治療まではまだまだ先が長いと感じるのは、ADの神経変性を誘導する張本人はリン酸化されたTauタンパク質だとわかっているためだ。神経変性はTauが細胞内で凝集し、それがプリオンのように神経間を伝搬して病気を拡大させることで進行する。したがって、Tauの凝集を止める、さらには凝集したTauをもう一度可溶性にすることができれば、アミロイドの蓄積があったとしても神経変性を抑える可能性が高い。

このための研究として、抗体薬やTau凝集を抑える化合物まで開発されているが、道は険しいと思ってきた。しかし、今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、遺伝子治療になるとはいえ、中期から後期のADにも対応できる画期的な治療に結びつくのではという期待を持たせる研究だった。タイトルは「TRIM11 protects against tauopathies and is down-regulated in Alzheimer’s disease(TRIM11はタウ異常症を防ぎアルツハイマー病では発現が低下している)」だ。

TRIM分子は後生動物で初めて見られるユビキチンリガーゼで、タンパク質のクオリティーコントロールに関わることが知られている。この研究では、77種類存在する人間のTRIM分子の中にTau分子の凝集を抑える分子が存在するのではと着想し、全てのTRIM分子をそれぞれ導入した細胞でTau凝集を誘導する十んを行い、三種類のTRIMが凝集を抑える活性があることを発見する。

このなかでTRIM11が最も強い活性があったので、この分子に焦点を当てて研究を続けている。

これまで発見されなかったのが不思議なくらいで、ADでTRIM11遺伝子発現の変化はないが、タンパク質発現レベルで見ると、AD患者さんではTRIM11が低下している。また、TRIM11遺伝子のレアバリアントがADリスクであることも示されていた。すなわち、TRIM11によるタンパク質のクオリティーコントロールがAD発症を抑える重要な働きをしていることがわかった。

次に凝集を起こしやすい変異Tau分子を導入した細胞内にTRIM11遺伝子を今日発現させる実験を行い、ユビキチンではなくTauをSUMOタンパク質を結合させ、これによりプロテアソーム依存的に分解することを明らかにしている。さらに、凝集Tauにより、正常Tauが凝集する、プリオン様の伝搬も抑えることができることを明らかにする。

この様に異常Tauをたまたま分解するだけではなく、正常神経細胞ではTau分子と結合して、一種のシャペロンとして働いていること、さらに一般的なシャペロンと考えられているHSP70やHSP40と比べると、その機能のために全くエネルギーを必要としないシャペロンの役割を演じていることを明らかにしている。

以上の結果から、この分子を導入することでTau異常症を防げる可能性が示されたので、細胞レベルの実験の後、変異Tau遺伝子を導入したADモデルマウスに、アデノウイルスベクターを用いてTRIM11遺伝子を導入する実験を行い、Tauの凝集や拡大を抑えるとともに、行動レベルで記憶など認知機能の改善が見られることを示している。

また、Tau異常症だけでなく、変異アミロイドβ遺伝子を導入して誘導する実験系でも、その後に起こるTau異常症を抑え、ADの症状を改善することを示している。また、直接海馬へベクターを駐車するだけでなく、脳室注射により脳脊髄液を介してもTRIM11遺伝子を導入して、AD症状を改善できることも示している。

結果は以上で、治療のモダリティーとしては遺伝子治療になるが、凝集が始まった後のTau以上症に対応できることから、かなり有望な治療法が開発できるのではと期待する。

  1. okazaki yoshihisa より:

    治療のモダリティーとしては遺伝子治療になるが、凝集が始まった後のTau異常症に対応できることから、かなり有望な治療法が開発できるのでは?
    Imp:
    Tau凝集を改善する新治療法となるのか?

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