天安門事件が起こる前の1988年に北京を訪れたことがある。あまり自由に散歩も許されなかったが、それでも朝早く北京市街を散歩すると、公園に鳥かごを持った人が集まって、おそらく鳴き声比べを楽しんでいる風景を見ることが出来た。当時は北京も高層建築はほとんどなく、胡同と呼ばれる共同住宅に人々は暮らしていた。
この時私が見た鳥の歌比べは、鳥によっては無限とも言える鳴き声を学習する種が存在するためで、行われていたのはできるだけ複雑な鳴き声を教え込む熟練の技を比べるコンテストだ。この複雑な歌を構成し発声する能力を決める神経細胞が学習とともに増えることがわかっており、Bird song learning は重要な研究対象になっている。
今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、鳥が持つ多様な歌のレパートリーと問題解決能力が完全に比例することを示した研究で、9月15日号の Science に掲載された。タイトルは「Songbird species that display more-complex vocal learning are better problem-solvers and have larger brains(より複雑な声の学習能力を持つ鳴き鳥は問題解決能力が高く、大きな脳を持っている)」だ。
論文は現象論に終始しており、レビューアーもかなり優しいなと言うのが最初の印象だ。ただ、現象は極めて面白い。
この研究は大学の野外調査フィールドで3年間に捕獲できた鳴き鳥、およびブリーダーから購入した鳴き鳥、全部で23種類の鳴き声を記録し、鳴き声のレパートリーの数から、鳴き声の限られた種類と、限られていない種類に分けるとともに、鳴き真似能力、あるいは歌ではない呼びかける声のレパートリーを調べている。
この記録から、鳴き声の学習に制限がある鳥と、制限のない鳥に分けることが出来、制限のない鳥では鳴き声だけでも平均25種類近く、呼びかけの声を入れると100近くのレパートリーを確認できる。
次に、それぞれの鳥について、問題解決能力(例えば石をどかせて食べ物をとる)、連合学習、判断のフレキシビリティーを問う逆転学習、そして自己コントロール能について調べ、それぞれの鳥にランクをつけている。
このデータを元に、まず種レベルで歌のレパートリーと相関する能力を調べると、驚くことに歌や呼びかけのレパートリー数と、問題解決能力のランクは完全に正比例しているが、他の能力には全く相関がない。
次に種ではなく個体レベルで同じ比較を行うと、ここでも歌のレパートリー数と、問題解決能力の間でだけ、完全な比例関係が見られる。
以上のことから歌のレパートリーの学習は、問題解決の能力と同じ脳領域を用いて行われていると結論している。ただ、どの回路なのかについては全く研究が行われておらず、脳の大きさと歌のレパートリーや問題解決能力とは比例していることが示されただけで終わっている。
結果は以上で、歌の複雑さやレパートリーが、一般的学習能力ではなく、問題解決能力と完全に比例関係になるという意外な驚き以外は、ちょっと物足りない論文だ。
でも、3連休の最後、ちょっとした息抜きには良い論文だと思う。