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10月19日:凄まじい淘汰のおかげでミトコンドリアの質が保たれている(アメリカアカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2014年10月19日
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ミトコンドリアは細胞のエネルギー代謝に必須の器官だが、この器官に必要な遺伝子の一部は細胞の核とは独立してミトコンドリアゲノムとして存在し、また独立して分裂する。元々精子にミトコンドリアの数は少なく、また受精後ほとんど完全に精子由来のミトコンドリアはオートファジーにより消滅するため、事実上ミトコンドリアは母親に由来する。このホームページでも解説した事があるが(2013年9月)、ミトコンドリア病はミトコンドリアの遺伝子の突然変異の結果起こる病気だ。しかし、ミトコンドリア遺伝子の持つ独立性のために、発症機序を理解する事がなかなか難しい。実際、人間の親子でミトコンドリアがどう伝わっているかについて詳しい研究はそれほど多くない。今日紹介するペンシルバニア州立大学からの論文は、このギャップを埋めるべく39組の親子の血液と頬粘膜細胞のミトコンドリア遺伝子配列を調べた研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Maternal age effect and severe germ-line bottleneck in the inheritance of human mitochondrial DNA(ヒトミトコンドリアDNA遺伝における母体年齢の影響と激しい生殖細胞ボトルネック)」だ。おそらくタイトルの生殖細胞ボトルネックと言う言葉を知っている方は少ないだろう。これは卵子形成過程で一度ミトコンドリアの数が急速に低下した後、分裂により元にもどる現象を指す。これにより、機能異常をもつミトコンドリアを淘汰していると考えられている。さて、この研究では39組の母子の細胞内のミトコンドリア遺伝子配列を調べて、細胞内に突然変異を起こしたミトコンドリアがどの程度存在しているのかを調べている。ミトコンドリアの遺伝の理解を難しくしている原因が、ヘテロプラスミーと呼ばれる現象で、一つの細胞に正常と突然変異を持ったミトコンドリアが共存することを言う。ミトコンドリアゲノムが独立性を持つため起こる状態だが、一つのミトコンドリアで突然変異が起こっても、細胞内には多くの正常ミトコンドリアが存在するため異常が表に出ない。ただ、分裂しない神経細胞などで、異常ミトコンドリアの増殖が高まり細胞を占拠し始めると症状がでてくる。他にも、先に述べたボトルネックを通るとき、異常ミトコンドリアの比率が急に増えることがあり、お母さんは正常なのに子供で病気が急に発症したりする。実際今回の研究で、ほぼ全ての親子で、突然変異を持つミトコンドリアが見つかる。また、突然変異の1/8は病気を起こす可能性がある突然変異だ。幸い、その割合は低く、1例を除いてそのままで異常を起こす事はない。また、アミノ酸変異を起こす突然変異は、ボトルネックの際淘汰されるのか子供に伝わりにくい。とは言え、20代に出産した組を30代で出産した組と比べると、異常ミトコンドリアが子供に伝わる確率は2−3倍上昇する。さらに39組中1組で子供の細胞で異常DNAが急激に増加しているケースも発見されている。以上の事から、ミトコンドリアヘテロプラスミーは誰にでも見られる事がわかる。そして、生殖細胞ボトルネックが異常ミトコンドリアの挙動を左右している事も良くわかった。このためこの研究では、ボトルネックでミトコンドリアの数はどの程度低下するのかを計算している。すると驚いた事に、普通なら10万個程度存在するミトコンドリアが一度は40個以下に減少する事が計算からわかって来た。とすると、ミトコンドリアは氷河期の人類が晒されたのと同じ様な凄まじい淘汰に毎世代晒されている事になる。この結果が裏目に出る事もあるが、このおかげで私たちは異常ミトコンドリアに占拠されずに済んでいるようだ。地道だが、ミトコンドリア病を理解するためには重要な研究だと思った。

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