脳内にリンパ管様の老廃物のドレーンシステムが存在し、睡眠はこの流れを促進する役割があるが、これについては2013年発見以来何度も HP で紹介してきた。
今日紹介する米国ロチェスター大学からの論文は、Glymphatics と名付けられた脳ドレーンシステムの異常が外傷後の脳浮腫の原因であることを示した研究で、まだマウスの話だが、将来人間の治療にも使われる可能性がある。タイトルは「 Potentiating glymphatic drainage minimizes post-traumatic cerebral oedema( Glymphatic ドレーンを高めることで外傷後脳浮腫を抑えることができる)」で、11月15日 Nature にオンライン掲載された。
この研究では麻酔下で頭蓋の外から強い力を与えた時に起こる脳外傷後の浮腫を軽減する方法を検討し、以前 Glymphatic のドレーン機能を高めることが示された3種類あるアドレナリン受容体の全てを阻害する方法(以後 PPA 投与)が、浮腫の発生と持続を強く抑制することを発見する。また、この治療により、浮腫にともなうさまざまな認知機能低下を抑制することもできる。
そこで、脳内にリンパ流をモニターする分子を注入して動きを見ると、外傷で流れが強く抑制されるが、PPA 投与で流れが回復することを確認する。この結果、通常脳浮腫に伴い起こる炎症が抑えられ、さらにアルツハイマー病の進行に関わる Tau 分子のリン酸化も抑制できることも明らかにしている。
これまで脳浮腫は血管からの体液の滲出が主原因と考えられ、例えばマニトールの様な血中の浸透圧を上げる方法が治療として用いられてきたが、この研究ではアイソトープラベルしたナトリウムを髄質あるいは静脈に投与し、髄液と体液のアイソトープ量を比較する実験で、血管外への滲出はほとんど脳浮腫に寄与していないこと、また脳脊髄液の過剰合成もないことを示し、脳浮腫がもっぱら Glymphatic のドレーン機能の障害によると結論している。
あとは脳 Glymphatic および最終的に静脈へと結合する頚部リンパ系の動きを観察し、脳内の Glymphatic の流れだけでなく、静脈へと結合しているリンパ管の動きが外傷で抑制され、PPA 投与で改善することを確認する。
そして、外傷後のノルアドレナリンの濃度を調べることで、外傷により脳内のノルアドレナリン過剰産生が誘導され、これが Glymphatic および頚部リンパ管の機能を抑制することで浮腫が起こること、したがって治療にはこの流れを回復することが重要で、これには PPA 投与が最も適した治療になることを示している。
これをそのまま人間の治療に移すのは簡単でないだろう。しかし β1 アドレナリン受容体阻害剤プロプラノロールが脳浮腫を改善させるという報告があることから、意外と早い段階で標準治療になるのではと感じる。
外傷後のノルアドレナリンの濃度を調べることで、外傷により脳内のノルアドレナリン過剰産生が誘導され、これが Glymphatic および頚部リンパ管の機能を抑制することで浮腫が起こること、したがって PPA 投与が最も適した治療になることを示している。
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外傷後、脳浮腫の新治療誕生か?!
外傷以外の脳浮腫(広範囲脳梗塞や腫瘍周囲)にこのglymphatic systemがどう関わっているのかがとても気になります。ご紹介いただいた論文を精読いたします!
外傷の場合ノルアドレナリンストームが発生し、これが浮腫の原因になると結論しています。もちろん、血管性の浮腫も間違いなく存在しますので、浮腫もその原因を見極める必要がある様です。