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10月26日:神経系と免疫系(8月27日号J. Neuroscience掲載論文)

2014年10月26日
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組織的合抗原(MHC)は免疫系の認識様式を決める重要な分子で、勿論免疫学独特の研究対象として考えられて来た。そんな時突然2000年カーラ・シャッツさんたちから、MHC1が神経発達に必要だと言う論文が出た。当時神経科学の論文を読む事はなかったが、何かの賞の選考でたまたま彼女の論文を調べる事になり、こんな仕事があるのかと驚いた。元々シャッツさんは、感覚神経回路の形成には、感覚刺激が入る前から自発的に刺激し合う事が必要だとする仮説を提案していた。同じ様な考えは免疫学でも刺激前に形成される内部イメージ説として提唱された時期があった。さらに、その時自己と他を区別する鏡になるのがMHCだった。2000年の論文では、シャッツさんはMHC1が細胞膜に発現できないマウスでは、この刺激前に出来る回路の形成が遅れているとする結果を示していた。ほんとかな?と思いつつその後この話をフォローする事なく今まで来たが、今年の9月になってMHC1の神経系での機能を研究しているプリンストン大学からの論文を目にした。論文は8月27日号のJ.Neuroscience誌に掲載され、「MHC classI limits hippocampal synapse density by inhibiting neuronal insulin receptor signaling (クラス1MHCは海馬のインシュリン受容体シグナルを抑制してシナプス密度を減少させる)」だ。少し古くなったが是非紹介したい。色々実験が行なわれているが、全て割愛してこの研究で明らかになった結果をまとめると次のようになる。1)MHC1の発現が低下している特殊なノックアウトマウス(β2マイクログロブリン、及びTAPの欠損したマウス)の海馬神経細胞ではインシュリンシグナルが更新している、2)この結果正常と比べてシナプス形成が更新し、シナプス密度が上昇する、3)インシュリンシグナルを抑制する阻害剤をノックアウトマウスに投与すると、正常に戻る、4)MHCとインシュリン受容体は結合しているが、同じ細胞内ではなく、異なる細胞との接着面で結合している。この結果に基づいて、海馬神経細胞ではインシュリンシグナルが常に入っているが、シナプスを形成して相手方の細胞と結合すると、その細胞が発現するMHC1とインシュリン受容体が結合し、インシュリンシグナルを抑制する。この抑制がないと、インシュリンシグナルが入りっぱなしになって、シナプス密度が上がると言うシナリオが示されている。なぜシナプスが出来て困るのか?と問われるかもしれないが、発生過程では刺激を受けたシナプスだけを維持して、あまり刺激の来ないシナプスを淘汰するプロセスが重要だ。おそらく、この淘汰がうまく行かないために、シャッツさんたちが最初見つけた様な現象が起こったのだろう。MHCは脊髄動物から見られる分子だ。これが神経系でも機能するとすると、脊髄動物の神経系が大きな機能的ジャンプを遂げる原因になっているかもしれない。しかしどんな現象もしっかり研究が進んでいる事を知り感心している。

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