ワクチンから CAR-T まで、今やさまざまなガン免疫を利用するシステムが開発され、実際臨床応用も少しづつ進みつつある。もちろん究極のガン免疫治療は、ガン抗原特異的T細胞を誘導して、ガンを抑制することで、原理的には個々のガンの抗原に対するテーラーメードガン免疫治療も可能になってきている。しかし、まだまだ金と時間がかかる。
今日紹介する米国国立衛生研究所と Marengo Therapeutics 社の共同論文は、特定の Vα と Vβ が組み合わさり、さらに突然変異も加わったガン特異的T細胞を刺激するのを諦めて、Vβ サブファミリー全体を刺激することでも、かなりうまくガンに対するキラー細胞を増幅し、ガンを抑制できることを示した研究で、11月29日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「AT cell receptor β chain–directed antibody fusion molecule activates and expands subsets of T cells to promote antitumor activity(T細胞抗原受容体の一つの Vβ を活性化、増幅することで抗腫瘍を高めることができる)」だ。
ワクチンや CAR-T の他に、IL2 の様なサイトカインを使ってT細胞を増やすことができないか研究が続けられているが、IL2 シグナルは複雑で、そのまま注射したのでは免疫をコントロールできないばかりか副作用が出る。そのため、特定のT細胞だけを刺激する方法の開発が進んでいるが、この研究もその一つだ。
ヒトには Vβ遺伝子が20種類存在するが、この研究ではこのうちの一つに対する抗体に、IL2分子を融合し、さらに Fc部分の突然変異により、キメラ抗体が絡まって一つの Vβ を持つ TcR を刺激すると同時に、活性化されたT細胞を IL2 で刺激するという算段になる。
標的の数を減らせるとはいえ、何%と言えるT細胞を全部刺激することになるので、抗ガンT細胞を増やすことができたとしても、他の体に悪いT細胞も増えるかもしれないし、また IL2 そのままだと、キラーの代わりに抑制性T細胞を増やしてしまうかもしれない。本当にうまくいくのと疑いながら読んだが、マウスと猿の実験で期待以上にうま行くことが示された。
まず試験管内でヒト末梢血T細胞を刺激すると、期待通り抗体が認識する Vβ が選択的に増えてくるが、驚くことに CD8キラーが一番よく増え、抑制性T細胞はほとんど増えない。
次にマウスの自己腫瘍モデルで、例えばヒトとマウスの両方を認識する Vβ13抗体+IL2 を一回注射すると、調べた6種類の同系統のガンの増殖を強く抑制し、一つのモデルでは完全に腫瘍を消失させることに成功している。すなわち、ガン抗原の中には Vβ13 に反応するものが存在ており、特異性は落ちるがそれでも IL2 で増幅されると、強い反応が誘導できる。
ではどの様な細胞が増幅されてきたのか調べると、ガン浸潤T細胞はエフェクター機能だけでなく、エフェクター記憶細胞も出現し、長く続くキラー活性を誘導できていることがわかる。さらに、腫瘍局所ではより腫瘍特異的と思われるクローンが増幅していることも分かった。
また腫瘍モデルではないが、サルに注射する実験を行い、期待通り末梢血の標的VβT細胞を強く誘導することができるが、その結果として副作用はほとんど出ないことを確認している。
最後に、人間での可能性を確かめる意味で、試験管内で腫瘍のオルガノイド培養に、腫瘍浸潤T細胞を Vβ6+IL2 で刺激して加えると、刺激しなかった浸潤細胞と比べて、強いサイトカイン反応を示すことがわかった。すなわち、ガン抗原に反応していることになる。
結果は以上で、タイトルを見て、アイデアは面白いが本当にうまく行くのかと疑ったが、実際には予想以上にうまくいった結果になっている。しかし、マウスで効果があっても、最終的には人間で確かめることが必要で、早く治験が進むことを期待したい。
ヒトにはVβ遺伝子が20種類存在するが、このうちの一つに対する抗体に、IL2分子を融合し、さらにFc部分の突然変異により、キメラ抗体が絡まって一つのVβを持つTcRを刺激すると同時に、活性化されたT細胞をIL2で刺激するという算段。
imp.
ヒトでの治験に期待します。