Covid-19で一般にも知られるようになったことの一つは、糖尿病患者さんはウイルス感染が重症化しやすいことだった。抗ウイルス薬が使えるようになったときも、糖尿病患者さんは優先的対象に選ばれている。私もなぜかとしばしば問われたが、正確なメカニズムについては答えられなかった。
今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文は、秋田マウスと呼ばれる糖尿病マウスを主に用いてウイルス感染症が重症化する過程を解析し、古くから知られている問題に一つの回答を示した研究で、12月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「 Lung dendritic-cell metabolism underlies susceptibility to viral infection in diabetes(肺の樹状細胞の代謝異常が糖尿病でのウイルス感染重症化の背景にある)」だ。
秋田マウスは、秋田大学で開発され、Ins2遺伝子変異が特定された、いわゆるMODY(若年発症糖尿病)で、肥満を伴わない糖尿病のモデルとして使われる。この研究では、まず秋田マウスにインフルエンザウイルスを感染させ、重症化率が高いことを確認した後、免疫システムを調べると、インターフェロン上昇、ヘルパー及びキラーT細胞減少、B細胞減少、そして抑制性T細胞上昇と、ウイルスに対する免疫が低く、炎症が強いというプロフィルを示すことを明らかにする。秋田マウス以外にも他の糖尿病モデルでも同じ結果で、高血糖の影響によるウイルス抵抗性の低下は一般的現象であることも確認している。
次に、この変化に最も重要なインパクトを示す細胞について探索し、最終的にDC1と呼ばれる樹状細胞の増殖が強く抑えられ、また遺伝子発現プロファイルから、樹状細胞としての機能も低下していることが明らかになった。
そこで、DC1細胞に絞って高血糖の影響を詳しく調べると、高血糖であるにもかかわらず乳酸の合成が低下しており、代わりにTCAサイクルとピルビン酸をつなぐアセチルCoAが上昇していることを発見する。すなわち、ピルビン酸から乳酸へのルートが阻害され、アセチルCoA濃度が高まり、その多くはTCAサイクル・ルートへと流れるという、可能性を示唆する。実際、ピルビン酸キナーゼを阻害すると、同じようにDC1の機能異常が誘導されることから、高グルコースのDC1への影響は、ピルビン酸キナーゼの機能低下の要因が最も大きいことを示している。
以上の結果は、アセチルCoAが上昇すると、それ自体でヒストンアセチル化を高め、またTCAサイクルを通して合成されるαKGを介して脱メチル化反応を高めることが知られている。そこで、高グルコースに暴露されたDC1のエピジェネティック状態を調べると、ヒストンアセチル化が高まり、その結果クロマチンが変化し、DC機能の慢性的低下が誘導されることが示唆される。
そこでヒストンアセチル化阻害剤を高グルコース処理したDC1に加えると、機能を復活させられることを確認し、秋田マウスにインフルエンザを感染させ、ヒストンアセチル化阻害剤で処理すると、ウイルスの抵抗性を回復させ、キラーT細胞もある程度回復することを示している。
結果は以上で、代謝異常からエピジェネティック変化という、現在最もガン領域で注目のプロセスが糖尿病でも起こっていることを示し、これが全てではないにせよ、糖尿病でウイルス感染が重症化しやすい理由を説明できていると思う。
最も重要なインパクトを示す細胞について探索し、
最終的にDC1と呼ばれる樹状細胞の増殖がつよく抑えられ、また遺伝子発現プロファイルから、樹状細胞としての機能も低下していることが明らかになった。
Imp:
樹状細胞の機能不全が背景にあったとは!
この研究の重要な点は、いくつかの治療ポイントを示した点だと思います。