今日はまだ完全には信じていない論文を紹介する。血中に流れてくるがん細胞(CTC)を診断に利用できることはこれまで何回も紹介してきた。しかしCTCを早期診断に使う試みはこれまでほとんど見たことがなかった。今年5月18日にここで紹介した論文でも、手術の適応があった乳がんの患者さんの高々21%にしかCTCが検出できていない。したがって、まだ治療効果や、転移や経過の予測に使える程度の段階かと思っていた。しかし今日紹介するニース・パスツール病院からPlosOneに発表された論文は、CTで腫瘤が検出されない時期からCTCでがんの発生を予測できるという驚くべき結果だ。タイトルは「 “Sentinel” circulating tumor cells allow early diagnosis of lung cancer in patients with chronic obstructive pulmonary disease (末梢血のがん細胞は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんの肺がんを早期に検出する見張り役になる)」だ。研究では、168人の慢性閉塞性肺疾患の患者さん、77人の健康人にCT検査をして、通常の方法では肺がんが見つからないことを確認し、10mlの血液中のCTCを計測している。CTCの検出法は極めて簡単だ。パリにある会社が開発した方法で、ただ血液をフィルターで濾して8ミクロン以上のサイズの細胞を集めているだけだ。集めた細胞を、上皮性のがんには発現しているが、血液細胞には発現がみられないヴィメンチンに対する抗体で染めて、陽性細胞がフィルター上にあるかどうかを調べている。高価な機械は必要なさそうで、検診としては現実味がある。驚くことに、CT検査で腫瘤が見つからないCOPDの患者さんのうち5人(3%)にCTCが発見された。数的には10mlに20−70個見つかっている。ただ、見つかったと言ってもすぐ肺がんと決め付けるわけにはいかず、経過観察を続けていると、なんと5例全員が1−4年(平均3.2年)のうちにCTで検出できる肺がんを発症している。一方、がん細胞が発見されなかった例にはがんの発症は見られていない。即ち、CTで発見される3年も前からCTCで診断が可能だという結果だ。用心したおかげで、5人ともがんができても大きさは全て2cm以内で見つかり、手術が行われ、現在まで1−2年特に問題なく過ごしているということだ。わかりやすく言えば地震予知が1年前からできるようなことだ。残念ながら、同時に行った正常人の結果があまり示されていないので想像だが、早期にCTCが検出できるのはCOPDの患者さんに限るようだ。この結果から、炎症ががん細胞の転移を促すことがよくわかる。いずれにせよ、この結果が本当ならCOPDの患者さんはぜひ超早期診断を受ける価値はある。しかし、健常人でもインフルエンザになった時を狙ってCTC検査をするという手もある。なんとか一般の肺がんの超早期診断へと発展させて欲しいと期待する。